店の端っこで夕飯を食べているボク。
店内は賑わっているが、誰もボクが女装で人気な子なんて思わないだろう。
それがくすぐったくて、とてもじゃないが笑みが止まらない。
パーカーのフードを少しだけ深くかぶって、前髪を整えて、
ひと口、あたたかいごはんを頬張る。
味なんて、ほんとはどうでもいいの。
ボクがこの空間に、ひっそりと“溶け込めてる”っていう事実だけで、
胸がいっぱいになる。
誰かが笑ってる。誰かが恋の話をしてる。
店員さんが料理を運んで、食器の音がカチャリと鳴る。
その全部の音が、ボクを優しく包んでくれてるみたいで、まるで、世界の中に居場所ができた気がするんだ。
昼間は、少し違う顔をしていた。
SNSでは「キミを虜にする」とか、「支配されたいの?」なんて強気に言ってみたりして。
あの子も、あの人も、
ボクのことを特別な存在として、見てくれている。
だから、ここではただの“誰か”になれることが、
少しだけ贅沢で、すごく愛おしい。
店の奥に飾られたポスターの中の女優さんが、ボクを見て笑ってる気がした。
「そのままで、綺麗よ」なんて言ってくれてるみたいで、
ほんの一瞬だけ、涙がにじみそうになる。
でも、泣かないよ。
今夜は、静かに嬉しいままでいたいから。
そしてたぶん、家に帰ったらまたボクは「支配する」側に戻るんだ。
でもね、本当は、
こんなふうに“誰にも知られずに可愛くいられる”ことが、
いちばんのご褒美だったりするのかもしれない。
…ああ、また笑ってる。
誰にも気づかれないまま、
ボクはここで、“ボクの幸せ”を食べてる。