高校の入学式の時『あの女はなんで男の制服を着てるんだろう』と思うくらい、中性的な顔をしたヤツがクラスにいた。
それが瑞希との出会い。
いつもボーッとしてて、口数が少ない、どことなく近付きにくい雰囲気だった。
1年の時は、一言二言しか会話した記憶がない。
2年では別のクラスになって、校内でたまに見かける程度だったけれど、その度に女っぽさが増しているような気がしていた。
仲良くなったのは3年の夏。
親に無理矢理入らされた塾に瑞希がいて、そこから急速に仲良くなった。
2学期が始まるころには、二人で遊びに行ったり、家に泊まりにくることもあった。
瑞希がボーッとして口数が少ないのは変わらなかったけれど、それでも瑞希と居る時間は、他の男友達や女友達と居る時間より特殊な時間だった。
カミングアウトを受けたのもこの頃だった。
塾の帰りに公園のベンチで話してる時、瑞希にスマホを渡されて、女の画像を見せられた。
「どう思う?」
「可愛い、瑞希の彼女?」
「違う」
普通にクラスの女より可愛かったけれど、よく見ると瑞希に似てるような気がした。
「姉ちゃん?」
「女装した僕」
ビックリし過ぎて何を言っていいのか解らなかった。
面と向かって男友達を可愛いと言った自分が恥ずかしくなった。
「可愛いって言われた」
「ハメられた」
「そうじゃない」
「じゃなんで女装してんの?」
「この方が可愛がってくれる」
「誰が?」
「オジサン達」
話せば話すほど意味が解らなかった。
頭が混乱していた。
「オジサンに可愛がられるってなに?」
「女になって男とセックスしてる」
完全に頭がパンクした。
その言葉を受け止める術を知らなかった。
「なんでそんなこと俺に言うの?」
「陽翔と友達になりたい」
「もう友達だよね?」
「だから隠し事したくない」
不思議なことに、気持ち悪いとか、変態だとかは思わなかったけれど、高校生が受け止めるには重すぎる話だった。
瑞希の女装姿が頭から離れなかったり、男とセックスしてる姿を想像したり、変に意識しすぎたせいで、少しぎくしゃくしたけれど、いつの間にか、元の関係以上の信頼関係が出来上がっていた。
二人共、高校を卒業して、無事に地元の大学に進学できた。
大学に入って初めての冬になろうとしてた頃、高校の頃より髪が伸びたせいか、瑞希の女っぽさは更に増していた。
「一人暮らし始めた」
「凄い、家賃どうしてんの?」
「親」
「金持ちの子はいいね」
「うん、遊びにくる?」
殺風景な瑞希の部屋で緊張していた。
畳んでベットに置いてある服が女物で、ブラジャーの肩紐っぽいものまで見えていた。
「着替えていい?」
「女装ってこと?」
「うん、陽翔に見てほしい」
「昔、画像で見たって」
「まだ実物は見せたことない」
あらたまって言われて、どう反応すべきか困っていた。
女装した姿を見せてなにがしたいのか、瑞希の真意がわからないのも返事を躊躇させた。
「ちょっと待った、向こう行ってる」
「どうして?」
服を脱ぎ始めた瑞希を慌て止めたけれど、本人はきょとんとしていた。
「何度も一緒に着替えたことある」
制服から私服や、外行きから部屋着は何も意識せずに同じ部屋で着替えたことはあった。
瑞希にとってはその程度の感覚なんだと思うと、変に意識した自分が恥ずかしくなった。
それでも意識せずにはいれない自分がいた。
男友達の上半身裸の姿なんて、数えきれないほど見てきたし、瑞希に関しても例外ではなかったけれど、変なフィルターがかかっていたのか、この時の瑞希の体は、とてつもなくエロいものに見えて、まるで女子更衣室を覗いてるような気分だった。
「うぇい、ブラジャーまで着けるのかい」
「パンツもお揃いの穿いてる」
なにかを紛らそうと、妙なテンションで突っ込んだ結果、予想外の事実に口から魂が抜け出ていく感じだった。
「見る?」
「見せなくていい」
少し見たいと思った自分が怖くなった。
完全に瑞希ペースで、弄ばれてる気分だった。
「できた」
化粧の途中から、どんどん女になっていく瑞希の顔に見惚れていた。
高校の入学式で初めて見た時から、ずっと思っていたけれど、化粧した瑞希は、その辺の女より遥かに可愛かった。
立ち上がった瑞希が、スカートの中で、それまで穿いてたズボンを脱いで生足が現れた瞬間なんて、勃起しそうになるくらい、ドキッといた。
「どう思う?」
「うん」
「やっぱり気持ち悪い?」
「違う違う、可愛い」
はにかみながら笑う瑞希に、更にドキッとして、急に汗が溢れて止まらなくなった。
顔を直視できなくて、視線を下げても生足が目に飛び込んでくるし、そこから少し視線を上げても、今度は瑞希の下着を透視しようとしてしまったり、目のやり場に困っていた。
「今の僕と一緒に外歩ける?」
「え?」
「こんなのと一緒に歩くの恥ずかしい?」
「何も恥ずかしくないよ」
「じゃ今度から遊ぶ時はこれでいい?」
「うん」
「じゃ今の僕とセックスできる?」
「はい?」
「できる?」
「顔はできる顔だよ、ぶっちゃけ凄い好きな顔だよ、でも瑞希とするってほら、ねぇ?」
素の自分で遊べる環境を作りたかっただけだったのかと油断した途端、とんでもない質問をされて、泡を吹きそうなくらい慌てふためいた。
「冗談」
「マジでやめて」
「でも凄い好きな顔って言われた」
この日から、二人で遊ぶ時の瑞希は常に女装してくるようになった。
街中で腕を組んだり、手を繋いできたり、よくからかわれるようになって、その度にドキッとして手を振りほどいていた。
それまで以上に距離が縮まった気がした。
一方で、それまでとは違う瑞希に対する特殊な感情を抑えられなくなっていった。
無情に抱き締めたくなる瞬間があった。
本当はカミングアウトを受けた時に勉強するべきだったのかもしれないけれど、この頃から、女装、mtf、同性愛、それらについて調べるようになった。