彼のマッサージをうけて変な気分になって数日。いつもと変わらない関係でいつも通りの仕事をこなす。 ボーナスを払う余裕なんてないけど、それでも頑張ってくれてる彼に、給料とは別に何かしらのお礼はしたい。時期的にもクリスマスでちょうどいい。何か欲しい物は無いか聞いてみた。「美味しいケーキとお酒を二人で一緒に」遠慮してるのか物欲がないのか、簡単過ぎる要求に好感度が増していく。24日の夜は彼女との先約があったから、25日の仕事が終った後、二人でケーキを食べながら飲む約束をした。26日は土曜日で休みだったし、次の日を気にせず飲めるのはいい。今になって思えば、美味いケーキ屋を調べてみたり彼の好きそうな酒を探したり、彼女と過ごす24日の事よりも気合いを入れて段取りしていた様に思う。そしてクリスマス。その日の作業を終えてリビングでケーキと酒を開ける。男二人のクリスマスパーティーを始めた。日付が変わった頃、だいぶ酔いがまわってきた。そこまで酒に強くない彼も、いつもより多目に飲んだせいで顔は真っ赤だし、目も殆んど開いていない。それでも俺に付き合おうとする姿が、逆に気を使わせてる様で申し訳なく思い、シャワーを言い訳に席を離れた。「ダメですよ…朝まで僕と飲むんでしょ?」酒乱かもしれない。そんな事を思いながら、絡んでくる彼を適当に流してシャワーを浴びに風呂場へ。シャワーを終えてリビングへ戻ると、案の定リビングで寝てる彼。起こしても起きない。仕方なく彼を抱き抱えて寝室へ移動する。この時点ではまだ何の下心もない。風邪をひかれると困ると言うシンプルな理由から、俺のベットに乗せて布団を掛けて寝室を出た。リビングに戻って一人で飲み直した後、そのままリビングのソファーで寝た。どれくらい寝たかは覚えていないけど、外はまだ暗かったと思う。顔の側に人の気配を感じて頭が目覚め始めた。飲み過ぎたせいで体を起こす事も目を開ける事もしたくない。ただ、体の感覚だけは鮮明になってくる。寝る前は掛布団なんて無かったはずなのに、体に掛布団が掛かっている感覚。そして唇に伝わるプニプニとした柔らかい感触。彼女が来てるんだろう。相手するのも疲れるし、そのままにして寝ようと考えた。少しずつ頭が回り始めた。まだ日の光を感じない。こんな時間に彼女がくるなんて有り得ないし、彼に掛けたはずの掛布団を剥ぎ取って俺に掛け直す程、非常識な彼女じゃない。冷静に考える程、頭が混乱してきた。そしてある程度の覚悟を決めて目を少しだけ開けてみた。数時間前に俺のベットに寝かせたはずの顔が目の前にある。目の前にあるなんてレベルじゃなく、唇と唇がくっついてる。覚悟を決めたはずなのに、あまりの衝撃の大きさに次に取るべき行動を見失った。そのくせに、やたら胸が締め付けられる。目の前に居るのは男だと言い聞かせても、その色っぽい顔に理解が追い付かない。「っ!」俺が目覚めてる事に気付いた彼が、ビックリした顔で目を見開いた。近距離で目が合ったまま固まる二人。実際の時間では一瞬の事だったんだろうと思う。感覚的には数秒間固まった後、慌て顔を離す彼。「気持ち悪いですよね?引きますよね?ごめんなさい」「大丈夫だから落ち着け」完全にパニック状態の彼を落ち着かせようと言葉を掛けながら、その言葉を自分にも向けて言い放った。前例の無い事態に俺が一番混乱てた。その場をどう処理するのが正しいのかも、なんて声を掛けるべきなのかも、いくら考えても出てこない。それと同時に、一瞬でもときめいた自分の気持ちすら未処理のまま放置した状態だった。下手に対処すると彼を傷付けるだけじゃなく、せっかく手
...省略されました。
精一杯強がってカッコつけたはいいけど実際は、完全にノープランで突っ走る痛いヤツ。これからどうするか考えてみた。相手が女だった場合、このままセックスの流れだろうか。自分がどうしたいか考えてみた。目の前で目を点にしてる彼とならありかもしれない。むしろ一線越えてみたい単純な興味もわく。興味だけで踏み出していい1歩なんだろうか。欲求を満たしたいだけの相手ならまだしも、純粋に俺を慕ってくれる彼にそれは酷すぎる気がした。それに俺の立場もあるし、雇い主と雇い人と言う関係性も、1歩踏み出すハードルを上げた。そもそも、また俺の先走りだったらとんでもない阿呆だと思われる。ここまで考えて、手汗をかいてる事に気付いた。「寝るか」「そうですね」何もしない事を選んだと言うより、何もできなかった時の事を考えて逃げた。童貞の思考。安心した様な顔なのに、残念そうな声のトーンで返事をした彼の本音が気になった。「僕はここでいいんでベット使ってください」なんていい子だと思ったけど一応は客人、風邪をひかれると困る。それは自分への言い訳かもしれない。とんでもない事を企んでる自分を肯定しようとしてただけだと思う。「一緒に寝る?」「いいんですか?」「お前が嫌じゃなければ」驚いた顔で首を縦に数回振った彼。その姿が可愛くて、もう一回抱き締めたいと思ったけど、気持ちを必死に抑えた。彼と二人でベットに入った。合コンやナンパで知り合った初見の女と寝てる時より緊張した。いつからこんな小心者になったんだと言いたくなるくらいドキドキした。「恥ずかしいついでに、お願いしていいですか?」「なに?」まだ覚悟出来てない。クールにキメてた自分が崩壊した。焦ってるのが丸わかりな態度で返事をしてしまった。「手、握っていいですか?」彼の声より俺の鼓動の方が大きくて、何を言ったのか一瞬わからなかったけど、確かに彼はそう言った。声が裏返ったり震えたりしたら恥ずかしい。無言で彼の手を握った。天井を見つめたまま、出来るだけ彼を見ない様にしてたから、彼がどんな顔や反応をしたかはわからないけど、彼の手を握った俺の手に、もう片方の手を添える様に両手で俺の手を握ってきた。「なんか嬉しいです」「これくらいならいつでもしていいよ」何が引き金になったかはわからないけど、たまってた何かを吐き出す様に彼が話し出した。男を好きになっても、いつも想って終わりだった事。誰にもカミングアウト出来なかった事。今回も想って終わりにするつもりだったけど、毎日何時間も密室に二人で居たり、一緒に出掛けたりするうちに、いつも通りにいかなくなった事。初めて男とキスして、初めて抱き締められて、初めて手を握って凄くドキドキしてる事。どう返していいかわからなくて、ただ黙って話を聞いてた。そして自分の中で何かが変わってていくのがわかった。「ごめんなさい、もう寝てください」起きたら一緒に出掛ける約束をして寝る事にした。結局、この土曜は起きたのが夕方だった事もあって、出掛けるのを日曜に持ち越した。
...省略されました。