中学のころの話をします。
学校の近くに、頼めば家に招き入れてエロ本を見せてくれるっていう有名なおじさんがいたんです。
名前も年齢も職業もすべてが不詳。多分四十歳~五十歳ぐらいなんですけど、独身で、山すそのボロい一軒家に独り暮らしをしているその人。みんなはその薄汚いオヤジのことを、「エロ本おじさん」って呼んでました。
噂ではそのおじさんはホモで、男子中学生とお近づきになりたいからってエロ本を部屋いっぱいに集めているとのことでした。
一人では絶対におじさんの家に行ってはいけない──。
友達の間で当たり前のようにそんな注意の言葉が行き交っていました。
一人で行ったら、危ない。下手をすればエロいことをされてしまうかもしれない。
でも二人以上でなら、安全にエロ本だけを楽しむことができるから──アイツのことは存分に利用してやればいい。
そんなわけで、僕も友達もみんなまとまって、エロ本おじさんの家にお邪魔しまくる──そんな時期が確かにあったんです。
おじさんの家には、本棚に収まりきらないほどのエロ本がありました。
和室の一つがエロ本倉庫のようなことになっていて、軽いエロ雑誌から、スカトロ、SMモノのどぎついエロ本まで、実写も漫画も混ぜ混ぜにして、近所の本屋にもないぐらいの品揃えでした。
今の子たちとは違って、当時の中学生は携帯やパソコンでオカズにありつくことなんてできなかったものですから──必然的にそこは、僕たち男子にとって夢のような場所になっていました。
学校が終わるとボール遊びもせずに、一直線におじさんの家にお邪魔するんです。
なぜかいつ行ってもおじさんは暇そうにしていたし、気前よくエロ本を見せてくれました。
僕たちはそうして、先生にも女子にも親にも内緒で、目覚めて間もない性の喜びに密かに浸っていたわけなんです。
でもまあ、中学生なんてまだまだ友達にはいい格好をしたい時期です。
友達がいる前では、見たいエロ本があってもなかなか素直に見ることはできませんでした。
それはきっと、おじさんの家に出入りしていた全員がそうだったと思います。
鼻息荒く、自分の趣味趣向を全開にしてエロ本を楽しむっていうよりは……友達の顔色をうかがいつつ、変に思われない程度にさらっと女体を目に焼き付ける──。そんな感じでした。シャイというか、何と言うか。
自分も、レイプものやSMもののエロ本に興味があったのですが、友達の前ではそういうものにはなかなか手が出せませんでした。
あんまり変な本を必死になって見ていても、からかわれたりするかもしれなかったんで。
まあ、我慢してましたね。
エロに興味津々のオスとしての本能と、これからも学校でうまくやっていかなくてはならない社会生物としての理性と。その間で、うまくバランスを取っていたと思います。
けれど、友達に変に思われてしまうようなどぎついエロ本も、おじさんの家にはやっぱりたくさんあって、それらは並々ならぬ存在感を示していたんです。
ホント、無視したくてもできないぐらいに。
誰の目も気にしないで堂々と隅から隅までじっくりと心の赴くまま思う存分楽しみたい。
当時の僕がそういう考えに囚われるのも、それほどおかしなことではなかったと思います。
あるとき僕は、本当に我慢ができなくなってしまったのです。
中学を卒業すれば、もうおじさんの家に行くこともない。その前に、どうにかしておじさんの部屋にあるあの大量のエロ本をすべて目に焼き付けておきたい。じゃないと、もったいなさすぎて、その後の人生においても後悔し続けることになる──。
そう思ってしまったのです。
そのためだったら、おじさんと二人きりになってもいい──。
いつしか、そんな考えが支配的になっていきました。
だってそうでもしないと、自分が本当に見たいエロ本がいつまで経っても見られないんですから。
だから行ったんです。一人で。
いつもは学校の帰りとかにみんなを引き連れておじさんの家に寄るんですけど、友達の家に泊まるからって親に言い残して、晩ご飯を食べてお風呂に入った後、一人でおじさんの家に向かったんです。
春の夜の生温かい空気を切り裂いて、走っておじさんの家に向かいました。
あの夜道での気持ちは、今もはっきりと覚えています。宝の山にダイブするような感覚。
性欲に目覚め、オナニーを覚えてまだ間もないころだったから、本当におじさんちのエロ本のことで頭がいっぱいだったんです。
学校にいても、帰りにおじさんちに寄ることばかりを考えていましたし、何とかして絶対にあそこにあるエロ本を制覇したい、そんな風に思っていました。
そしてまさに今これから、それが現実になろうとしているのです。ワクワクしないわけがありませんでした。
僕は息を切らしておじさんの家にたどり着くと、すぐにチャイムを鳴らしました。
いつもボロい部屋着で家にいるおじさんは、もちろんその時にも変わらず家にいたのです。
「エロ本が見たくて、友達の家に泊まるって言って出てきた」
僕がそう言うと、彼は笑顔で「上がっていきなさい」と言ってくれました。
そして、「明日は日曜日だから、泊まって行っても構わない」とまで言ってくれたのです。
僕は嬉しさのあまり、飛び上がりそうになりました。
だって、じゃあ、朝まで何百冊というエロ本が見放題なのですから。
しかも、今回ばかりは友達の目も気にすることなく、思う存分好きなタイプのエロを楽しめるのです。
友達がいる前では絶対にできないオナニーだって──おじさんが寝てしまえば、できるかもしれない。
本当に、心臓がバクバクでした。
僕は最高の気分で靴を脱ぎ、おじさんの家に上がり込みました。
そして、予想していたのとは違う意味で、あまりのエロさに人生が変わるほどの衝撃的な体験をしてしまったのです。