義理の妹とは言っても妻の実妹ではなく、妻の実弟の嫁の事です。
夫婦生活も20年に及ぶと妻との関係もギクシャクしだし、お互い倦怠期を意識し始めました。
加えて、お互いが45歳という年齢に達し、セックスも疎遠になりがちになっていました。
その年の年末、部下達の有志の忘年会に誘われ、無下に断わる理由の無いぼくは喧騒の街中にいました。
一次会でしこたま飲んで、泥酔状態の部下を送り返す為、流しのタクシーに声をかけ部下をタクシーに押し込むと、運転手に行先を告げ部下を送りだしました。
部下を乗せたタクシーが交差点を曲がる様子を見て、腕時計に目をやると時刻はまだ9時を廻った時刻でした。
『帰るには早いか…』そう思い、賑やかな街中を歩きだすと前方に、これも忘年会だろうと思われる男女の集団が目に入りました。
【次、二次会に行こう】【カラオケがいいですか?】男女や年齢層の違う集団に、職場か何かの忘年会である事は容易に想像出来ました。
賑やかな集団の前を通り過ぎようとしたその時、
「おにいさん…しゅうじ、おにいさんっ!」誰かに名前を呼ばれ、声のする方向に目を向けると、その一団の中に見知った顔がありました。
『由美ちゃん?。』声をかけてきたのは、義弟の妻の由美でした。
いきなり現れた、見知らぬ男に怪訝そうに眺める由美の同僚達。
『こんな場所で会うなんて…何?由美ちゃんも忘年会?』そう問いかけると、
「ええ、でももう帰らないと…子どもも待ってるから。義兄さんも帰るところですか?」そう問われ曖昧に『あぁ、そうだよ』と答えると
「じゃあ、一緒に帰りましょうか。」そう言って一団から抜け出た由美は、わたしの横に身体を寄せると
「それじゃあ、わたしはお先に帰らせて貰いますね。」そう一団に声をかけると、一礼をして歩きだす由美。
追う様に由美に歩調を合わせ『じゃあ、家まで送るよ。』と言うと
「えっ、もう帰っちゃうんですか?」と小声で答えた。
『だって、今帰るって…』そう言っていたじゃないか。
「あの場から逃げ出すには、そう言うしかないじゃないですか(笑)」そう言うと、由美は微かに笑ってみせた。
「あの係長、何かって言うと【人妻、人妻】って厭らしい事ばっかり言って…あんなのと二次会なんて冗談じゃないわっ。」憤懣遣るかたない由美。
その様子が微笑ましく感じたぼくは
『じゃあ、どこかで飲み直そうか。まだ、時間も早いみたいだし。』そう誘ってみると。
「えっ、いいんですか?。」ニコリ微笑む由美
『でも、子どもは?。待ってるんじゃないの?。』子どものいないぼくでしたが、それとなく心配になり尋ねると
「今日は実家にあずけてあるから、少し位なら遅くなっても平気なんです。」心配ご無用とばかりの返事
『そうなんだ。じゃあ、どこに行こうか?お腹はもう一杯なのかな?』
「正直言うと、少しだけ空いてるかな…お酌ばっかりで、あまり食べれなくて(笑)」
『じゃあ、居酒屋みたいな所でも行こうか。馴染の店があるから。』由美を連れて、行き慣れた居酒屋に向かった。
【こうやって二人で並んで歩くと、傍からはどう見えるのかな?】そう思いながら、嫁いだ当時の由美を思い起していた。
義弟に嫁いで8年が経過し、由美は33歳になっていた。
義弟とは8年前の妊娠を機会に結婚した。
妻の実家、すなわち由美の嫁ぎ先は今だ古風なしきたりを守る家柄だった。
男尊女卑を地で行く感じに、妻との結婚を申し入れに行ったぼくも、その旧時代的な感覚に驚かされた。
由美の実家は知りうる限りでは、自由な気風の家に思われ、そのギャップに戸惑う由美の姿が何度か見受けられた。
妻から聞かされる弟の妻の不満が多くなったのは、由美が子どもを出産して一年が経過してからだったと思う。
子どもが三歳になった年、家計の為に由美が働きに出た事を知った。
旧家とは言え、実家の経済状態は決して芳しいものでは無かったから、由美が働きに出る事は何の不思議も無かった。