高速道路を順調に走り、目的の温泉までスムーズに着くことが出来ました。
温泉地にある高い山の頂上までロープウェイで上がると風が強くて、少し肌寒くも感じましたが、眺めが素晴らしかったです。
お昼ご飯は手打ちのお蕎麦を食べたんですが、薬味に生のワサビをすりおろして食べたら、鼻にツンと来ることなく、ほんのり甘く感じて、とても美味しかったです。
そんな時間を過ごして、今日泊まる宿に到着。
落ち着いた感じの旅館でした。
旅館のフロントで宿帳を書く時に、裕之さんが自分の名前を書いた後、ちょっと私の方を見てから、自分の名前の下に名字を書かずに加代とだけ書きました。
一瞬、本当の奥さんになったような気持ちがしました。
中居さんが案内してくれたお部屋の窓からは山の緑と近くに流れる清流の眺めが良く見える和室でした。
それに小さいけれど露天風呂が付いていたのには驚きました。
『裕之さん、このお部屋高かったでしょう?』
『はい、ちょっと頑張りました(笑)』
『加代さん…』
裕之さんに抱き寄せられ、顔が近づき唇が触れた瞬間…
部屋の扉がノックされ、先ほどの中居さんが
『失礼します。ご夕食は、こちらのお部屋にご用意させていただきます。お時間は6時でよろしいですか?』
『はい、お願いします』
キスのタイミングを失って、裕之さんもイタズラを見つかった子供のようにばつが悪そうな苦笑いをしてました。
お互いに照れ笑いしながら、
『少し、汗をかきましたね。露天風呂に入ってさっぱりしましょうか。加代さん、お先にどうぞ』
『私が先でいいの?でも恥ずかしいから覗かないでね』
やんわり、裕之さんを横目で見ながら釘を差しておきました(笑)
山の緑と清流の川音を聴きながらの露天風呂はとても気持ちが良くて癒されました。
裕之さんも入れ替わりで露天風呂に浸かり、二人とも宿の浴衣に着替えると、すっかり寛いでまったりしました。
そのうちに、中居さんがお部屋に夕食の用意をしてくれました。
鮎の塩焼きや地元で取れた山菜のお料理などが並びました。
中居さんが
『それじゃ、あとは奥様、よろしくお願いします』と言って下がっていきました。
私が『はい』と答えると、裕之さんも笑いながら小さな声で
『どこからどう見ても、熟年夫婦ですね』
『やっぱり、そう見えるかしら…
裕之さん、運転お疲れ様でした』と言いながら、グラスにビールをつぎました。
『加代さんも、どうぞ』
私、ビールは苦いので普段はあまり呑まないんですが、湯上がりだったせいか、ゴクゴクっと呑んでしまいました。
裕之さんも一気に飲み干して、
『加代さんと一緒に飲む風呂上がりのビールは最高にうまい』とご満悦の様子です。
お料理を平らげながら、ビールをさしつ、さされつして、二人だけの楽しい夕食の一時を過ごしました。
やがて中居さんが片付けに来て、次の間にお布団を敷いてくれて
『それでは私は下がりますので、ごゆっくりお休みください』と、部屋を出て行きました。
もう、明日の朝まで誰にも邪魔される事が無い二人だけの時間が訪れました。
『加代さん、寝る前に今度は二人で露天風呂に入りましょうか?』
まわりは日が落ちて暗くなって来てました。
私は、今度は
『はい』と返事をしました。
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