裕之さんが以前のように朝の散歩をしながら、奥様の遺品の整理や家の中の片付けをしていること、七七日忌の法事や今年の夏の新盆の準備をしている事などをポツポツと話してくれました。
そして、無事に新盆も終えて、いつものように朝の散歩に現れた裕之さん。
久しぶりに以前のような爽やかな感じがしました。
『裕之さん、新盆お疲れ様でした。大変だったでしょう?』
『はい、さすがに疲れました』
『なんか少し明るくなったみたいで良かったわ。』
『僕、そんなに暗い顔をしてましたか?』
『今だから言いますけど、ずっと何か考え事をしているみたいでちょっと話しかけにくかったわ』
『そうだったんですか…ごめんなさい。加代さん、やっと気持ちの整理が付きました。もし良かったら気分転換に一泊で温泉にでも行きませんか?』
『エッ!温泉に?そんなこと、いきなり言われても困るわ…しかもお泊まりするなんて…』
私は内心とても嬉しかったけど、裕之さんとの恋がもう駄目かもしれないと思い込んでいた矢先だったので、素直にハイと答えらませんでした。
明らかにがっかりした様子の裕之さんは
『そうですか…もしかして、加代さん僕のことが嫌いになりましたか?それとも…』と言って言葉を飲み込みました。
『それとも、何ですか?』と私が問い詰めるように聞くと、
『誰か好きな人が出来ましたか?』
私は思わずカッとなり『何てこと言うの!私のこと、そんな風に思っていたの?私、そんな軽い女じゃないわ』
悔し涙が溢れそうになりました。
裕之さんは私の剣幕にちょっと驚いた様子で
『加代さん、ごめんなさい』と言った後、今までの自分の心境を打ち明けてくれました。
それは、私と深い仲になった後、奥様の容態が悪くなり亡くなったことに罪悪感を感じていたこと。
そしてせめてもの罪滅ぼしに、奥様の一年忌が終わるまでは私とのお付き合いは朝の散歩だけにしようと思ったこと。
でも、一人で遺品の整理などをしているといつの間にか私のことを考えている自分に気が付いたこと。
このままでは自分の気持ちも抑えきれないし、もしかしたら私を誰かに盗られてしまうかもしれないという妄想に苦しんだことなど…
私は裕之さんの話を聞いて、ついカッとなってしまった自分が恥ずかしくなりました。
自分がないがしろにされているような気がして、裕之さんの気持ちに気が付かない嫌な女になっていたなぁ…と思いました。
『裕之さん、私の方こそごめんなさい。本当のことを言うと私旅行に誘ってもらえて嬉しかったの。でも素直になれなくて…こんな私だけど、温泉に連れていってくれますか?』
裕之さんの表情がパアッと明るくなり
『良かったぁ。加代さん、もちろんです』と言ってくれました。
私も今までのモヤモヤからスッキリと霧が晴れたような気持ちになりました。
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