ゲームのリスタートは1週間後だった。
『ツーリスト見たいよね』
ケイコの書き込みを見て
すぐに誘った。
『いつ行く?笑』
初夏を思わせるような春の日。
僕たちは映画デートをした。
待ち合わせは、お互いに普段行かない街だった。
「ごめんね。待った」
5分遅れてきたケイコは、初めて会ったときとは別人みたいだった。
藍色のマキシワンピースに、白いシャツ、アップにした長い髪が妙に色っぽかった。
「全然待ってないよ」
見とれて上の空の僕を察して、ケイコが少し照れる。
「あんまり見ないの。この前はスーパーだよ?メークもほとんどしてなくて、帰ってから恥ずかしくなったんだから」
僕の肩を叩きながら続ける。
「そうでなくても君は見た目が若いからね。8歳差を埋めようとがんばりました」
おどけて言うケイコは、びっくりするくらい可愛かった。
「いや、マジでいい。超可愛い」
自然と口からこぼれていた。
僕は妻に休みを誤魔化して伝え、ケイコも友達と遊びに行くと言って、二人とも丸1日アリバイを作っていた。
映画を見て、遅めのランチを食べながら語り、ウインドウショッピングを楽しんだ。
「ご飯どうしようか?」
夕焼けの見えるベンチで僕が聞く。
「今日はドキドキのサプライズないの?」
ケイコがにやけながら僕をのぞきこむ。
あとで聞いたら、この時別にケイコは誘ってたわけじゃなく、意地悪で言っただけだったそうだ。
でも、この一言で、隠していた下心に火がついたのは間違いない。
「じゃあ・・」
僕はそう言うと、ケイコの手を握った。
万が一知り合いに会うとも限らないから、つなぐのはやめようと思っていた手。
密着するように、深く。
確かめるように、強く。
愛撫するように、優しく。
「やっぱりデートは手つながないとね」
柔らかく笑うケイコを抱きしめたくなる。
少しの沈黙のあと
僕はストレートに言った。
「やっぱ俺、ケイコを抱きしめたいわ」
ケイコが僕の手をぎゅっと握り返す。
「サプライズありがと」
僕はまた強く握り返すと、エスコートするように立ち上がった。
「行こっか」
初めてのときを迎えに、紫色の空のしたを歩き出した。
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続きます。
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