~続き~
「わたし、実は結婚してるんです。早くに両親を無くし、父親みたいな方に憧れもあったんですね…たぷん。今の主人は、前に勤めていた会社の上司だったんです。はじめは、とても優しくしてくれました。」
ここで沙希さんは、気張っていた肩をがっくり落とした。
「大丈夫?無理しなくていいから。今日はこの辺にしておこうか?」
焦る事もないとも思った。
しかし、沙希さんは
「いえ、では、昨日の事を覚えてる範囲で簡潔に…。実は、主人は、その…私を大勢の男性に抱かせて悦んだり、拷問のようなセックスを求めてくるんです。昨日もサイトで募集したとかで、見ず知らずの男性に何処だかもわからないところで縛られて相手をさせられていました。はじめは4人の相手をさせられていましたが、満足された方から次第に解散されて最後の人が『お前を今日1日買ったんだ。好きにさせてもらうからな』そう言うと縛られて動けない私を殴ってきたんです。二度目に殴られた時にロープが外れ掛かって逃げようとしたんですが、取り押さえられて『これなら逃げられないだろ』そう言われビンごとウイスキーを喉まで押し込まれ、殺されると思い大人しく言うことを聞いて犯されました。
確かに逃げるのは困難でしたが、その人は私を抱いた後、残りのウイスキーを飲んで寝たので逃げてきたんです。わたしも酔いが回ってて服を探すどころではなかったようでした。どこをどう歩いたかもわからないです。そして助けて頂いたんです。」
そこまで話すと沙希さんは、少し何か肩から落ちたのか顔がすっきりしたように見えた。
「大変でしたね。でも、帰宅されれば同じ繰り返しですね…。」
俺には沙希さんの明日が不安だった。
「もう…主人の元には…か、かえりたく ないんです…ぐっ…うぐっ…」
沙希さんは毎日を余程辛抱してきたのだろう。
「沙希さんさえ構わなければ、家にいてくれていいんだよ。昨日きてくれた奥さんもきっと力になってくれるよ。安心して」
本当は男の人は、うんざりかも知れないと思ったが、言った後で抱き締めてあげると沙希さんも泣きながらゆっくり私の背中に手を回してきて優しく応えていた。
「ありがとうございます…。でも、ここにいる事が知れて主人がご迷惑を掛けることになっても申し訳ないですし……。主人、とても力が強いんですよ」泣き顔に増して不安な表情で私の顔を覗き沙希さんはいったが
「あははは。ヤクザが来ても易々と沙希さんは渡しませんよ。こうみえて、結構、腕自慢なんでね♪」そう言って沙希さんを抱き締めたまま、グルグル回ってみせると
「お気持ちありがとうございます。嬉しい」
また、この優しい母性あふれる笑顔だった。
沙希さんの笑顔には、柔らかい光りがあって、暖かい。
その笑顔は、勇気をもたらせる。
再び昨夜の友人宅に電話する。
「もしもし。今何時?…って、まだ、6時じゃん…日曜日だぞぉ~勘弁してよー。で、昨日の娘どした?」
「昨日はすまなかったな。助かったよ、奥さん起きてたらお願いできる?」
「あぁ、ちょっと待ってろ。おぉーマユミーっ!!替われってー…もしもし。昨日はどうも」
「ああ、マユミさん、昨日は悪かったね。助かったよ、で、概ねの事情聞いたよ。暫く彼女、外へ出られないみたいなん…ん?」
沙希さんが背中をポンポン叩いてメモ書きを差し出してきた。
"私が来たのは群馬からだから、大丈夫。出掛けられるよ"だった。
電話口で話しがとぎれたマユミさんは、次の言葉をまっていた。
「あ、マユミさん。ごめんね。」
「あ、いえいえ。で、頼みって」
「そうそう、彼女、沙希さんって言うんだけど暫く帰れないんだ。たまに家に寄って話し相手になってやって貰えない?忙しいかな?」
「あっ、いえ大丈夫ですよ。私も旦那の悪口いいたいし(笑)」
「悪口あるんだ(笑)じゃ、たのむよ。毎日とは言わないから、よろしくお願いします。やつに替わって貰っていいかな?」
「わかりました。主人にかわりますね。…あぁ、もしもし。なに?」
「あぁ、もしかしたら、ちと面倒が起きるかもしれねーからさ。俺も声かけとくから、そっちも頼めるか?」
「いいぞ。最近、とんと暴れてねーからな(笑)みんな喜ぶさ」
「じゃ、たのむな。」
「おうっ、じゃまたな」
後ろで沙希さんが、目を嬉々と輝かせて私の会話を聞いていた。
「あの…昔、何かされてたんですか?不良だったとか?クスッ」
女性から聞かれると、ちょっと照れる
「ま、まぁ、そんなとこだよ。じゃ、今日は日曜日だし沙希さんの着るものを少し買いにいこうか。ずっとそのままって訳にもいかないしね」
「ハイッ!!」
そう答えた沙希さんは、はじめて子供のような顔でわらった。
「後でかえしますから、今は貸しておいてください。ありがとうございます」とペコッと頭を下げた。
「さっ、じゃ行こうか!!」
「ハイッ!!」
ピンポーン♪
「マユミでーす!!開けてー!!」
あわてて玄関を開けるとマユミさんが紙袋を2つ下げて立っていた。
「沙希さん、服ないんでしょ?これ、私のお古だけど合うのあればと思って持ってきたの。合わないのは捨てて構わないモノばかりだから、何かの足しにしてね。じゃ」
「すまないね。マユミさん。ありがとう。やつにヨロシクね」
「うん。ヨッチャン!!ちょっとちょっと」
マユミさんの手招きに応じて歩み寄ると
「昨日、どさくさに紛れて沙希さんの身体さわったんでしょ?沙希さん覚えてて笑ってたわよ。うふふ。おかしー♪」
顔が真っ赤になった。
言い訳に「おっぱいとお尻だけさ」
とたんにマユミさんは、「こぉのっ!!エロオヤジがっ!!」
グーでミゾオチにドスンと一発。
「うっ…ぐっ…」
マユミも腕は落ちていなかった。
「私もまだイケそうだわ。じゃ」
ミゾオチを食らったまま、玄関で悶絶してる私は声からがら
「お、おぅ…あ、ありがとう。…ばた」
沙希さんが「大丈夫ですかー」と。
しかし、沙希さんの顔は笑っていた。
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