当日、同期に連絡しなかった(したくなかった)言い訳を、彼を待つ駅のロータリーで考えていた。
でも、ドキドキして、足が震えて、何も考えられなかった。
彼の車に乗り込と、「あれ、他の人は来なかったの」と、言われ、「まあ、(旧姓)小西さんが来ればいいか」と、深く追及されなかった。
「じゃあ、何が食べたい?人が減ったから、高いものでもいいよ、鰻でも食べる?」と言われ、鰻を食べながらガイダンスという名のデートを楽しんだ。
食後、彼の車に乗り込み、最寄りに送ってもらいながら、
「二人きりだと、なんか、デートみたいだね」
『(もともと、そのつもりだけど)そうですね』
それから、お互いが、しゃべらなくなった。よくある気まずい、というか、張りつめた雰囲気がただよった。情熱家で明るい彼が黙ったので、彼も私と同じ気持ちなんだと、初めて確信した。
最寄りに着きそうになった時に、私から
「お時間あれば、カラオケ行きませんか?今度は私が出しますから」
彼の顔に動揺が走った、困ったような、でも嬉しそうな顔をしていた。
『う~ん、あと二時間くらいなら、大丈夫ですよ、それに僕が奢りますよ』
と、彼は照れながら、答えた。
このあたりだと、会社の人に見られるから、少し離れたカラオケボックスへ向かった。
そこで、小さなアクシデントが起きた。
私は助手席にいたが、右手がサイドブレーキのそばにあり、交差点で停車した時に、サイドブレーキを引くつもりで、彼の左手が私の右手を触った。
『あ、ごめん、わざとじゃないんだ』
「え、わざとじゃないんだ。事故なんだ」
『事故なんだ、残念。事故なら、仕方ないね』
「うん、事故だからどうしようもないよ」
また、二人の神経戦が始まった。なんとなく、緊張してきた。
『あ、あそこです、曲がってください』
「ああ、わかったよ」
駐車場に、停めたら、また彼の左手が、私の右手を掴んだ、今度は優しく、間違いなく、わざと。
『ごめん、わざとじゃないんだ、事故だよ』
でも、彼は、左手を引っ込めなかった。
私は、右手をひっくり返し、彼の手を優しく掴んだ。
『わざとじゃなければ、全然大丈夫ですよ』
「うん」
変な握手でお互いの温もりを感じていた。
『そろそろ入りましょうか』
「そうだね」
彼の許される時間は二時間、更なるアクシデントを期待しながら、ルームに入った。
※元投稿はこちら >>