男も微笑みながら私達のテーブル横に立ち話しはじめたとき、直ぐに異変があった。
まずは、男が笑顔で私に挨拶していたが妻に目をやった瞬間、言葉が止まり妻をじっと見ていた。
が、少しへんな間の後、男は再び話しはじめた。
この時、先程までの微笑みは男にはなく、ただ真顔でお礼を言っている感じだった。
完全に動揺していることがわかった。
次に、妻だ。
男がテーブル横に立ったとき、妻も同時に見上げた。
妻は、口を開けたまま動かなくなった。
そして見る見る顔色が変わっていった。
よく凄く驚くと顔色が無くなるとか、白くなると言ったことは聞いたことがあるが、この時の妻は見る見る真っ赤になったいった。
真っ赤と言うか、赤黒いと言ってもいいぐらいだった。
私は妻と男を交互に見ていた。
二人の動揺は、尋常じゃなかった。
が、その動揺に気づいたのは、私だけじゃなかった。
奥さんは男の斜め後ろに立っていたが、男の顔は見えないが動揺に気づいたようだった。
それと妻の顔色の変化にも気づいたようで、妻に大丈夫ですかと尋ねるぐらいだった。
私はあえて笑顔で、
『お二人は、もしかしてご夫婦ですか?』
と尋ねたが、男は何も言わなかった。
それに気づいてか、奥さんが直ぐに、
『そうなんです。
小さな店なんで、あまり人を雇えませんから』
と笑顔で答えた。
男は話し終わると、逃げるようにその場を離れた。
同時に奥さんも離れた。
変な空気が漂っている。
妻は先程までの笑みはなく、少し口を開けたまま赤黒い顔色で下を向いていた。
妻に話しかけても、返事だけで反応がなかった。
しばらく妻の様子を見て楽しみました。
今、妻の頭の中は、今後の展開の事でグルグル回っているのだろう。
そろそろ店を出ることにした。
奥さんを呼びお会計をお願いすると、席で待ってくださいと言うと奥さんは立ち去った。
私は妻に、お会計は私がするから先に車に居るようにと言い車の鍵を渡すと、妻は待ってましたとばかりに逃げるように店を出て行った。
まあ、この場から直ぐにでも立ち去りたかったのだろう。
支払いをし、お釣りを待っている間、奥さんからできれば記載してほしいと1枚の紙を渡された。
それは店へのアンケート用紙で一番下に名前・住所・電話・アドレスの欄があった。
私は全てに記載した。
ただ、電話とアドレス欄には、私の携帯の番号を記載し、カッコで『私の携帯』とも追記した。
全てを終え店を出ようとしたとき、奥さんに呼び止められ驚きの言葉を言われた。
『○○様、失礼ですが奥様のお名前は陽子様ではありませんか?』
私はびっくりした。
やはり奥さんはHPの書き込みを見ていたんだと。
そして妻と男の異変に気付いたと。
私も腹をくくった。
『そうですよ。
HPの書き込みの通りです。』
と言うと、奥さんは少し驚いた感じだったが直ぐに冷静な感じで、
『詳しいことをお聞きしたいのですが・・・』
と言われたので、アンケート欄の私の携帯の電話もしくはアドレスに連絡してほしいと告げ店を出た。
自分で作った展開だが、こんなにドキドキするとは思わなかった。
車に乗ると妻の顔色は暗くてよくわからなかったが、目は泣いていたようなに見えた。
帰宅時の車の中は、静かだった。
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