妻と羽鳥が今も関係している証拠を掴む必要がある。妻と羽鳥が密会しているのは羽鳥が夜の店をやっている以上、平日の昼間もくは店が休みの日曜という事になる。平日の昼間は仕事があるから妻の後を追ったりするのは難しいと思われたが、色々考えた末に俺は会社を3日程休むことにした。
妻には再来週の月曜日から三日間出張になったと伝えた。俺は当日早朝、出張用のキャリーを持って陽が登らないうちに家を出て駅のトイレでスーツを着替えて普段着を着込み、駅のコインロッカーにキャリーバッグを押し込んだ。
深夜2時まで営業している羽鳥が妻と落ち合うなら昼過ぎだろうと考え午前中はネットカフェで時間を潰した。本当なら妻は出勤して自宅には居ない筈である。俺は半分、妻が出かけて留守の自宅を期待して我が家に向かった。
残念ながら俺の期待は虚しく消えた。自宅は雨戸が開き明らかに在宅の様子が見てとれた。俺は近所の手前、ぶらぶらするわけにもいかず自宅近くの公園で時間を潰して10分おきに自宅が見える場所に足を運ぶ事を繰り返した。
1時を過ぎた頃、俺が自宅の見える交差点まで来ると雨戸を閉める妻の姿が見えた。出掛けるつもりだ。俺はその場でこれから起こる事を想像しながら緊張して妻が自宅から出てくるのを待った。
妻はワンピースにコートを羽織り軽い足取りで家から出てきた。まだ羽鳥と会うと決まった訳では無いが、俺に会社だと嘘をついてまで出掛ける用事。
羽鳥との逢瀬である事は間違い無いだろう。
妻は駅前の雑居ビルの2階のカフェに入っていく。羽鳥と待ち合わせで、俺がここで羽鳥と鉢合わせたり、羽鳥に見られてしまったらコトである。俺は辺りを確認しながら妻がカフェに入ったのを確認したあと、注意深く雑居ビルを後にして、道路を挟んで反対側のハンバーガーチェーンの店に入った。
ここからは雑居ビルの出入り口がよく見える。俺はハンバーガーチェーン店で昼食にセットメニューを頼み、ハンバーガーをコーラで流し込みながら雑居ビルの出入り口を注視していた。
暫くすると皮のライダースジャケットを羽織った羽鳥が雑居ビルに入っていく姿を目撃した。
俺は全てが最後の最後に間違えであることを期待していたが俺の祈りに近い願望は脆くも崩れた。
小一時間過ぎたであろうか。あの雑居ビル、他にも出入り口あったのか、それとも見逃したか。
俺が焦り始めた時、羽鳥と妻が少し離れて出入り口から出てくるのを確認した。
俺はハンバーガーの紙くずが乗ったトレイをテーブルに置きっぱなしでバッグを掴んで外に出ると道路の反対側を歩き2人を追った。
駅とは反対側、繁華街とは反対側に向かって歩いていく。2人は少し離れて歩いている。近所の目を気にしているのだろうか。しかしながら、この先はこの界隈では有名なホテル街だ。
俺は怒りと、尾行などしてる背徳感と今までの暮らしを壊したくなく見ないで引き返したい気持ちとが全部入り混じり吐きそうな状態だった。
少し寂しいラブホ街近くのうらびれた街に入った時だった。我慢していたものを解放する様に妻が羽鳥の腕に自分の腕を絡ませる。俺は気がどうにかなりそうだった。
幾つもあるラブホテルを通り過ぎて真っ直ぐに歩いて行く。たぶんいつも逢瀬に使う行き慣れたホテルがあるようだ。真っ黒な新しい綺麗なラブホテルに妻と羽鳥は躊躇う事なく吸い込まれていく。
俺はスマホを取り出してその様子を撮ろうとしたが手が震えて操作どころでは無かった。
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