晶子が好きなのか、知らないうちに好きになってる自分に気づきました。
風呂を覗きながら、晶子という女に魅了されてました。
では晶子はどうなのか。
先ほど書いた通り、晶子は私の高校卒業をひたすら待っていたんです。
だから高校進学を晶子は断ったんです。
ついでに言えば、風呂覗かれてることも、晶子はお見通しでした。
バレないはずありません。
小窓開いてれば、誰か覗いてるってわかるに決まってます。
晶子はあえて、小窓に目をやらないよう、気をつけていて、自分が私にどうゆう対象になってるかを、きちんと認識していたんです。
女としての対象になっている、晶子はそれを知っていました。
「私は守男さんのお嫁さんになる」
晶子が一番、揺らいでなかったのです。
12才の頃の気持ちが、全くブレてなかったんです。
話しは決まりました。
きちんと契りを結びたい、そう申し出たのは私でした。
男性としてけじめをつけたい気持ちでした。
昭和33年暮れ、父の先輩大工を仲人みたいな役をお願いし、結納みたいなことをしました。
きちんとした物ではなく、簡素な物でした。
これでやっと、結婚の約束を結んだわけです。
そうなると次は、体の結びつきです。
私はきちんと就職するまでは、そう思っていました。
それを促したのは母でした。
「お前の学校から役所に向かう途中に、成田旅館あるのわかるかい?そこの女将さんに話ししておいたから」
そう言って私にお金を渡しました。
つまりそこで晶子と結ばれてこいと言うことです。
私は給料もらうようになってからと言いました。
「もう決まったんだから。いつまでも女を待たせるもんじゃない。晶子は何年も待ってたんだよ」
母の毅然とした態度の中にも、晶子を思いやる優しい気持ちを垣間見ました。
晶子が服直し店休みのとき、私はあえて学校をサボり、晶子を誘いました。
街を少しブラブラ、成田旅館前、誘えず通り過ぎたり。
やっぱり女は、男より一枚二枚上手でした。
三度目くらいだったでしょうか?
成田旅館の前を通り過ぎようとしたときでした。
「ここに用があるんじゃないですか?」
晶子が成田旅館を指差しました。
「え?なんで?」
私はとぼけてみせました。
「お母さんから聞いてます。守男はどん臭いから誘えないだろうと言われてきました」
参ったな~と思いました。
「本当にいいの?」
「何年も前からずっといいですよ」
成田旅館の暖簾をくぐりました。
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