本当の閉店、不動産屋引き渡しの日、俺はその日、仕事を休み、最後の片付けを手伝った。
ウイスキーとかのボトルは、パーティーに集まったお客さんに配り、ほとんどなくなっていた。
残ったボトルは、業者さんとかにあとから配ると言う。
それを片付け、グラスは後から入る人が使えるなら使えばよいと、残した。
そしてやってきた不動産屋の担当。
鍵を渡すときに見たキーホルダー。
俺が出張で行ったお土産、大阪通天閣のキーホルダーがついていた。
「あ、ちょっと待って下さい」
そう言って不動産屋から鍵をまた受け取ると、キーホルダーを外し、ポケットにしまい、また鍵を渡していた。
店を後にした俺達。
鍵をかけ、不動産屋が去っていくのを見ていた。
「終わった、終わっちゃったね」
目尻からポロリとまた涙を流していた。
「これからどうする?」
「蓄えはあるし、閉店パーティーで結構儲かっちゃったから、しばらくは大丈夫。でも仕事は探す。なんでもいいから」
「そうか」
「出来れば永久就職がいいけどね」
涙をこぼしながらも、うふふと笑った。
「ねぇ、今日は一人でいたくない。良かったら付き合って?」
そう言われた。
ならばと俺は、自宅に招いた。
初めて自宅に招いた。
「何これ~、荒れ放題じゃない~!立派な家なのに」
あぁあぁもうもうと、呆れられた。
「これ、どこにしまうの?これはどうしたらいいの?」
そう言いながら、細々と動き出した。
勝手に掃除機を見つけ出し、ガーガー掃除をしたり。
「食器洗う洗剤は?スポンジとかは?あぁ店のやつ、処分しなきゃ良かったな~」
「冷蔵庫、ビールとかくらいしか入ってないじゃない。食べ物は~?」
「んもう、全くどうゆう暮らししてきたんだか」
ブツブツ文句ばかり。
でもなんかそれが新鮮だった。
元妻は家事が大の苦手だった。
まるで母親。
「私、台所やるから、アナタは風呂場ね」
片付けしたあとにまた片付け。
渋々風呂掃除。
夕方、やっと一段落。
「泊まるつもり?」
「う~ん。なんか帰りたくないかな。でも明日仕事だもんね。やっぱり帰るよ。着替えもないし」
「いいよ、泊まっていけよ。着替え、取りに行こう」
ママを車に乗せ、自宅へ向かう。
「車、止めるとこないから、ここで待ってて?」
しばらく待たされた。
小さいかばんと、クーラーボックスを肩にかけて出てきた。
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