待つこと20分、明らかに店に立つといういでたちではない格好で現れた。
化粧もいつもの風ではない、薄化粧といった感じ。
鍵を開け、中に入るとき、臨時休業の札をとった俺。
「あ、それ、かけたままにして?」
灯りをつけた。
「何のむ?」
「ビール」
ガチャガチャと瓶ビールを出す。
「つまみ、用意してないから、こんなのしかないよ」
ポテチと柿の種。
「話しがしたくてきたんだ」
「ならばここじゃなく、電話で言ってくれたら、別なとこで良かったのに」
「でも臨時休業なら、誰もこない」
「ま~ね」
あははと笑った。
「この前の話しなんだけどさ」
「うん」
「どこまで本気?」
「どこまでって、全部本気だよ」
他にも常連はいるだろうし、俺みたいにバツイチや独身もいるだろうと言った。
「なんかね、中村さんだったらなって、ずっと思ってたんだよね。いつも紳士的な振る舞いしてて、ツケといてなんて言ったことないし。きちっとしてるなって思っていた」
いつもならカウンターの向こうとこちらなのに、カウンターに並んで座っていた。
「客と寝たことは?」
ふふっと笑った。
「ない。それやったらおしまいだと知ってるから。私が付き合ってきた男性って、業者関係の人や、同業の人ばかりだった」
そうかと思った。
「店やめて俺の女になれ的な態度されるようになると、嫌になったから結婚しなかった」
「でも今は店やめて、誰かの女になりたくなった?」
「う~ん?正直、この前も言ったように、食べるのも精一杯、このままいけば、食えなくなる。うん、やっぱりそうかな。店やめて誰かの女に。そうだね。今から仕事探すったってね。なかなか」
「んで俺に白羽の矢がたったんだ」
「中村さん、いいなって思っていたから。でも私じゃ嫌なら仕方ない。潔くふられますよ」
「嫌とは言ってない」
「わかる!私のこと、疑ってかかってるんでしょ?水商売女だから、わかるよ」
俺は親兄弟親戚付き合いなど聞いた。
「姉夫婦が母と実家に暮らしてる。父は六年前に亡くなった。親戚とも普通に付き合ってるよ?」
ふ~んと聞いていた。
「最初は普通に会社勤めしてた。でも飲みにいった先のママに憧れて。最初両親反対してたけど、店持ってからはそうではなくなった。認めてもらえた」
俺の身の上話しもした。
少しずつ、お互いのことがわかるようになる。
淀みなく話しをされ、次第に信用が生まれた。
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