飛び出して行っちゃうだろう?」、の続きです。以降、最後の行を再掲して
つなぎを確認できるようにしますネ:
彼らが話していくにつれて、彼の言う概要と論理が意義のあることらしく
思えてきた。一人の人間でも両世界を楽しむことが出来るなら面白かろう。
ジェイン夫婦とメール交換していって、双方、やってみようと同意した。
そして今や機上の人となってジルは、身も心も急いていた。強く魅かれて
いると感じた未知なる人との週末の逢瀬のためだった。ジルとて全くのうぶ
じゃないから、男女の親密な逢瀬ってのが、どういうものかも分っていた。
ここ数年間ガレスに馴れ親しんで、いつも一緒に過ごしてきた上で、全くの
他人を性のパートナーにしてみるって、どんなものなんだろう?
デートが近づくにつれジルは、ますますこの体験を待ち焦がれる気持ちに
なった。計画では彼女がトムと会いにミネアポリスへ向かって、ジェインが
ガレスとの逢瀬にミシガンへと飛ぶ手はずになった。落ち着いた興味の域に
留まっていた彼女の気持ちだったが、それが興奮の域にまで高まってきて、
その夢想を完璧に仕上げるべく予め提案してみた。それは、バーでばったり
出会ったトムに拾い出される、という設定だった。
という次第で彼女はミネアポリス空港から一人でタクシーに乗り込んで、
とある素敵なバーへ向かった。そこでは音楽ががんがん鳴り響いて、独り者
らしい同士が次から次へと身体をまさぐり合っていた。ガレスがそんな類の
場所をひどく嫌っていて、ジルは結婚して以来、ずっと何年か行きそびれて
いたのだった。音楽も踊りも、ちょっかいを出し合ったりも、また感覚的な
雰囲気までもが彼女は好きだった。
「ボクと踊って戴けません?」背が高く金髪で、いかにもという好青年が
見下ろし笑いかける。それに肯き返しつつジルは、意外に彼が若く感じられ
『この彼、年齢なら私の方が、充分お姉さん格といったとこね』と思った。
彼のダンスの腕前はそう大したことなかった。最も熱中したのは、自分の
身体で役立つもの何でも使って、ジルの胸をさっと撫でたがることだった。
それでも過熱といえそうな彼氏の傾斜ぶりにはジルも興奮してきて、進んで
身体をぶっつけて彼の動きに手を貸していった。最後にくるっと回転させて
彼女を抱きとって、トムは自分の手をジルの胸に宛がった形で決めた。
『新世代になったからと言っても、物事はそんなに変わってないのね』と
最後にジルは思った。本当にトムが現れたし、いかにも俺のものだと言わん
ばかりのキスを頬にして、彼女を拾い出してくれた。
二人は間もなく騒音のさなかで、踊りながら、自分たちも周りに負けない
大声で喋っていた。呑んでいても踊っていても、とことん楽しい中、彼らの
愛撫はだんだんと高まって、ダンスフロアでの『全身マッサージ』になって
しまっていた。夜半頃までに二人は音楽の中でも話せるようにと、おでこを
くっつけ合うように坐り、話題になることごとくに笑っていた。
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