この魅力ある男と裸で立っていて、そしてこんな風に話していてジルは、
不意に性的とも言える親密さを覚えた。親密と言っても、二人の間にどんな
性的関係もない訳だが、暗闇のプールで裸という半端な状態が、二人の心を
ぐんぐん近づけていった。あたかも目には見えないが、明らかに何かの力が
働き、二人をくっ付けにかかっているかのようだった。実際に彼らの身体は
触れなかったが、つまりこれはトムの方が触れていこうとしなかった訳で、
ジルにとってはこれが意外だったし、多少の不満も感じた。とはいえ、身体
には触れなくとも、心での固い結びつきがそこにはあった。
ジルは思い出した。あの時ガレスとジェインが、プールの周りをぶらぶら
しながら遠くへ行ってるな、と気づいたのだった。彼女がトムと二人でいる
プールの端っこ付近からは、はるか向こうだった。
「あの二人が近くにいないのに、なんで私たちがくっつかなかったのか、
今になってみると不思議ね。」ふと呟いた彼女の声は大きかった。
「すみません、よく聞き取れませんでしたが」と隣の乗客が訊ねる。
「ごめんなさい、独り言でした」彼女は慌てつつ、にっこりして謝った。
隣席の彼が自席で本に目を戻し、ジルはトムとのあうんの呼吸を自覚した、
もう一回の、あの折についての夢想にひたった。
ガレスとジェインが彼らの身体を拭くためにタオルを持って戻ってきて、
水に入ってた二人もプールから上がった。誰からも2フィートと離れてない
所で全裸の二人がタオルで拭いてるというのに、誰もが気にしないようすに
ジルは驚くのだった。二人が服を着直しに戻ることにして、ジルはさっきの
悪戦苦闘を繰り返すより、とパンストをガレスのポケットに滑り込ませた。
「ほら、トム、これが今宵の記念品さ」ガレスがおどけて、ポケットから
出し、彼らの前に差出した。トムはそのパンストを受け取ると、笑いながら
頬にあて、すっと自分のポケットに仕舞いこんだ。その瞬間、自分の身体が
ぶるっと少し震えたのをジルは思い出した。ついぞ返してくれなかったわ、
彼、と今頃になって思い返して、彼女の顔がほころんだ。
※元投稿はこちら >>