「このホテルって専属のマッサージがあるんだって、すごいね。」
「そうなの?普通なんじゃない?」
「せっかくだからマッサージ受けてみようか?今日はたくさん歩いたから明日太ももが痛くなるかもよ?」
「いや私は別にいいから自分だけしてもらったら?」
俺は考えた、嫁は極度の人見知りで、仲良くなるまでは必要最低限な会話しかしない。
自分が不愉快になったとしても、他人と会話をするほうが苦痛なので我慢する事を選ぶほどの人見知りだ。
飲食店に行けば自分から水のお代わりをすることはないし、店員がオーダーを聞きに来なくても、店員が気付くまでひたすら待ち続けるほどである。
この性的をなんとか利用しようと考えた。
とにかくマッサージを部屋まで呼べば、そこから先の事はその時に何か思い付くだろうと 俺は考えた。
部屋に着くと備え付けの受話器を持ち上げた俺は妻に言った。
「じゃあマッサージ頼むからねー」
「別にいいけど私はいらないからね」
「何がそんなに嫌なの?やってもらえばいいじゃん」
「いや知らないおじさんに触られるとか絶対無理だから」
その時俺はひらめいた。
「こういうホテルのマッサージって普通はおばさんでしょ。俺は主張の時に何回も呼んだ事あるけど、絶対におばさんだったよ。」
「てゆうか、男の人だと女性のお客さんで嫌がる人も多いだろうからホテルはおばさんしか雇わないんじゃない?」
「そう言われればそうかもね、おばさんだったら別にいいけど。」
第1段階クリア。俺は早速フロントに電話してマッサージを手配した。
「すみません。マッサージをお願いしたいんですけど。はい。はい。そうです。」
俺の電話中に嫁は隣から口を出してきた。
「女の人かどうかちゃんと聞いてね!男の人だったら絶対無理だから!」
俺はうなずくと、電話を続けた。
「はい、2人分お願いしたいんですけど、すみませんマッサージの方って女性ですか?」
「ですよね。あー、良かったです。はい。大丈夫です。では2人分でお願いします。」
俺が電話を切ったあとに嫁は俺に確認をしてきた。
「女性って言ってた? 」
「うん、スタッフは何人かいるけど女性が空いてますって言ってたよ。」
真っ赤な嘘である。「女性ですか?」の後、フロントの女性に、
「申し訳ございません、当ホテルには男性しか在籍しておりませんが、それでもよろしいでしょうか?」
と聞かれたのである。
「ふーん。あのさ、私マッサージってやってもらった事ないんだけど、何か準備とかあるの?」
俺はまたもやひらめいた。
「あー、それか。体を温めておくといいらしいから、今のうちにお風呂に入っておいたら?俺が先にマッサージ受けておくから1時間くらいかかるし。」
「そうなんだー。じゃあマッサージの邪魔にならないように大浴場に行ってくるね。」
いつもは嫌がるのに今日は珍しい事を言い出した嫁だが、思いの外、好都合に物事は進んでいった。
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