第4部 ‘心理‘
それまでの露出プレイの際、他の男性から身体を触られる事はあっても、挿入までは至っていない。
だが彼は、彼女が他の男性と交わり、そして感じるのを見たかった。
普通(の定義はさておき)の男性なら、自分の彼女が他の男性と…というのは考えられないと思うことだろう。
勿論、彼も以前はそうだった。
以前は結構、嫉妬深い方だったと思う。
いつの間にかその感情は別の感情に変わっていった。
昔から、自分がイクことよりも、彼女が満足してくれることが、より快楽を満たすことができた。
それも一要因であると考えられる。
実際彼女とのSEXでも、射精することなく行為を終えることがある。
過去を振り替えってみても、以前付き合っていた女性から「私とのSEXでは感じられないの?」と悲しそうな目で訴え掛けられたことがあったほど。
だからといって、決して持久力がある訳ではない。
彼自身は早漏だと自覚している。
太さや長さにも自信がない。
彼がオモチャを多用するのもそのせいだった。
彼にとって【他の男性】とは?という質問をすると、決まって答えはこう帰ってくる。
「彼女を満足させるために使う性玩具の1つ」
それと
「敢えて例えるなら、SEX用アンドロイド…」
ある日2人は、ベッドで繋がったまま会話していた。
「本当は、もっと違うこれが欲しいんじゃない?」
「そんなことなぁいっ」
「本当に?」
「ほんと、に…」
「絶対?」
「ぜった、い」
「嘘だぁ」
「うそじゃ、な、い、あっ」
「本当~は?欲しいんでしょ?」
「欲しいぃ、あっ、イクぅ」
そう言って彼女は果てた。
~冗談かなぁ?
からかってるんでしょ?
マジなの?
興味ない訳じゃないけど…
私が、他の人を受け入れるなんて嫌じゃないの?
イヤだって言ったら…
私、嫌われちゃう?~
その時、彼女の中では複雑な気持ちが入り交じっていた。
半ば強制的に、彼女に言わせた感は否めないが、 しかしその答えが本当の答えであることは、その時に熱く締め付ける彼女の奥が証明していた。
最後にもう一度、彼は彼女の肩を抱き寄せ、優しく声を掛ける。
「じゃあ、今度して見せてねっ」
彼女は幾らか恥ずかしそうに、彼の腕の中で頷いた。
「うん」
彼女を複数プレイに持っていくための彼の最初の作戦は成功した。
「うん」と言わせること。
本当に嫌なら、絶対ヤダ!って即答するか、最悪キレる筈…と考えていた。
逆にそれまでの彼女の経歴を考えれば、絶対大丈夫!という自信さえ彼にはあった。
だからといって、すぐさまセッティングするわけにはいかない。
なるべく彼女が自然にその流れに乗れるためにはどうすべきか考えた。
SEXの時、彼のものを咥える時、ドライブ中や露出中など、
「もしこれが違う人のだったら?」
という言葉を投げ掛ける。
最初は
「イヤ~ん」
と言っていた彼女の言葉にも変化が顕れた。
「興奮しちゃうかも…」
彼女をマインドコントロールする…
と言うのはかなり大袈裟だが、少しでもイメージさせることは大切だ。
その結果として、既述したドライブや屋内外での露出における+α作戦が実行されたのである。
そして、彼女の+αに対する接触抵抗値は、限り無く0に近付いた。
筈だった。
そんな中、やっと訪れた絶好のチャンスが、あの映画館でのこと…
彼女が挿入を拒否したのは、彼にとって全く予想外の出来事だった。
何故、断ったのだろう…。
帰り道での運転中、彼が導き出した答えは
「もしかして…あの人タイプじゃなかった…?」
見事、正解。
「ごめん…」
彼女にイヤな思いをさせてしまった…
後悔という重石が彼にのし掛かる。
露出を始めた頃、
~彼女が嫌がることはしないこと。イヤなことは、ちゃんと言うこと~
という2人が交わした約束があった。
彼は決してそれを忘れてはいなかった。
彼女もまた、当然それは同じである。
その約束の下で、彼との経験を純粋に悦び、そして充分に楽しんでいた。
イヤなことはされていないし、してもいない。
申し訳なさそうな彼に、余裕の表情で彼女は返事した。
「大丈夫。とっても楽しかったよ?
また来てみたいね」
一瞬にして彼の重石は消え去った。
そして安堵の苦笑い。
男って単純…。
触ったり触られたりしたことも、全部がイヤな訳じゃない。
入れたいと思えるほどの魅力がなかったということが一番の理由。
それにギャラリーも多くて、落ち着かないこと。
初めて受け入れるのがその場所というのも、彼女はイヤだった。
やはり雰囲気は大事…。
彼女のそんな思いを理解したのか、彼は、
「じゃあ、どんな男性なら良いと思う?」
と直球を投げた。
真剣な彼に、彼女も誠実に答える。
「上限は40代位までで、髪が薄くない、髭や胸毛とか体毛が濃くない、清潔な、病気持ってない、怖くない、見た目普通以上の、秘密守れる、私の知らない、誠実な、優しい、私がイヤがることしない、乱暴じゃない人
それと…
~ちょっと大きめの人~かな?
てへっ」
ほぼ、彼の考えていた彼女のタイプ、条件に合致する。
それに彼としての希望、条件として
~彼女の唇にはキスしないこと。
必ずゴムを使用すること。
彼女がタイプじゃなければお断りする場合があること。
顔無しで撮影してもいい人。
最低限、まずはメールで、まともなやりとり出来ること。
~
などを付け加えて、後日、幾つかのサイトに投稿してみた。
彼は仕事を終え、彼女と一緒に夕食を済ませたところでその旨を告げる。
「何て書いたか読んでみる?」
正直なところ、素の状態であるノーマルモードの彼女にそんな余裕はない。
内心では、
‘’え?マジで?
……。
どうしよう…。‘’
そして、精一杯の強がりから出た言葉は、
「任せるから…」
そんな彼女の傍らで、彼は何件か来たメールに期待して返信する。
ところが、まともに会話が出来る人がなかなかいない。
根本的に誠実さがない人が多かった。
要求してもプロフが送ってこなかったり、彼が何個かの質問をしても無回答、逆に質問で返答がきたり、そのうちの一個のみの返答などはザラ。
言葉遣いが雑過ぎ、礼儀知らず、ホントは嘘だろ!と決め付けるメールも中にはある。
「なら、メールしてくんな! ボケが!」
と思う。殆どが冷やかしなのだろう。相手にするだけ時間の無駄だ。
彼がそれを重要視するのは何故か?
彼女が彼とのSEXだけでは感じられない何かを感じ、悦びを得るのに応しい男性、彼女を大切に扱ってくれる自分の分身、の選択。
また身体的な満足だけではなく、その前後にするであろう何気無い会話さえも想像した。
彼女が気に入れば、一度きりではなくその後も、2人の遊びのお手伝いやお友達として一緒にカラオケなどの遊びにも行けるような、それ以上の関係にもなれたらいい、とさえ彼は考えていた。
慎重になって当然だろう。
日々埋もれていく投稿をスレ上げし、
数週間ほど経った頃、やっと対等にやりとりできる人物からメールが届いた。他の条件もほぼ満たしている。
あとは…顔だけ。
彼女はその間、実は気になって仕方がなかった。
確かに、任せる…とは言ったものの、その話題に触れる勇気は出ない。
どんな人と…なんだろう…。
今日じゃないよね?
彼との時間を過ごす度、身体の奥が疼くような緊張が彼女を襲い、自室に戻るとその糸はほどかれるを繰り返した。
日を追う毎に微かな期待も湧き出てくる。
彼のこれまでの‘’‘やり口‘’を考えると、露出してる時に、誰かが車に乗って来たら、その時が運命の日…。
そう覚悟した。
ある日、彼が
「こんな感じの人たちから写メ来てるんだけど、見てみる?」
と携帯を差し出し、数人の男性の顔を彼女に見せた。
「え~…」
と言う割りには、携帯を受け取ってじっくり見定める。
「知ってる人は?」
「いない…」
ちょっと年下と思われる可愛い感じの青年、同年代位の男性、ちょっと年上のおじ様等、意外にもバラエティーに富んでいる。
この時、彼の中では、既に誰にするか答えは決まっていた。
その答えを含めた数人の写真を見せて彼女の反応を確かめただけのこと。
「この人は、なんかちょっと…」
と言われなければそれでいい。
「どう?」
「別に良いんじゃない?もう任せるってばぁ…」
これで+β(プラスベータ)くん確定。
あとは、いつ、どこで、どうやって彼女に対面?対戦?させるか…が問題。
でも既にどんなシチュエーションで始めれば、心理的抵抗が少なくて済むのか…彼は構想を練っていた。
やはり原点に戻り、アイマスクしかない…。
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