第二十七章
美佐君との会談(と言うにはあまりに一方的なものでしたが)を終えた夜、ここ数日の顛末を妻に伝えました。
「だめよ、そんなの。」
私の話が終わらないうち遮る妻の口調は、明らかな怒気をはらんでいました。
妻の反応は予想とおりでしたし、もっともなものでしょう。
「彼はいまや将来の日本代表をしょって立つとまで言われる大学ラグビー界のスターなのよ。この前とは立場が違うの。もし、こんなことが公になったら彼の将来に傷がつくどことの話じゃなくなるのよ。あなたそれをわかって言ってるの?」
そうです、この一年の間に私たち夫婦と彼の立場、それに伴うリスクも逆転していたのでした。
妻の言い分には全くの隙間もありません。完全無欠の正論でした。
「その通りなんだけどさ、彼女の態度がどうにも気になるんだ」
「もしこの話に乗らなかったら公表するってわけ?そんなこと私が許さないわ。そんなバカな小娘、なんなら私が直接話をつけにいってもいい」
妻の普段使わないとげのある言葉に驚き、たじろいでしまいました。
「そんなことして、話がこじれたら余計に大変なことになるかもしれないだろ。なるべく穏便に済ませる方法を考えようよ」
「穏便って、それが小娘の提案に乗るってことなの?あなた、どうかしてるわよ。本気で田中君のことを心配してるの?その小娘を抱きたいだけなんじゃない?」
正直、痛いところを突かれた思いがしました。
しかし、長い夫婦生活の中でも数えるほどしか見たことがない剣幕でまくし立てる妻を前に、それを認めるわけには断じていきません。
「由美、落ち着いて考えてくれよ。例えばさ、俺たちが泥棒一味だったとするだろ。それを第三者に知られてしまったとき、そいつの口を封じるには仲間に引き入れてしまうのが一番安全だと思わないか?」
事前に用意した例え話とはいえ、我ながら苦しい理屈だなと感じずにいられません。
「思わないわ。仲間になったからって裏切らない補償はないでしょう」
話し合いともいえないほど、終始彼女のペースで会話は進んでいます。
私はサンドバッグの気持ちがよくわかる気がしました。
「まぁ、それを言っちゃおしまいなんだけどさ」
「それに口を封じるなら、もっと簡単な方法があるかもしれないじゃない」
妻の言葉の真意はわかりませんでしたが、私には既に彼女がイタリアンマフィアの女ボスに見え始めていたので、意味を考えないようにするのが精一杯でした。
「とにかく、一度会ってみようよ。その、田中君の彼女に。案外、信頼をおけるかもと思えたら、お前の考えも変わるかもしれないし」
「そうは思えないわ。そんないやらしい要求してくる時点で、田中君の彼女にふさわしいとさえ思えません」
「なぁ由美、そんな感情的になってたら、話が進まないよ」
「感情的になんかなってません」
数十秒の気まずい沈黙。すでにボロ雑巾のようになるまで打ちのめされた私は言葉を継ぐことができないままでした。
口を開いたのは妻でした。
「でも、まぁいいわ、今いったとおり、まず彼女が彼にとってふさわしいかどうか、それを見定めるだけでも会う意味はあると思うから」
妻は立ち上がり、乱暴にドアを閉めてリビングから出て行きました。途方にくれて、つけっぱなしのテレビに目をやるとジャイアンツ対ソフトバンクの中継が映し出されています。
スコアは12対0。大量リードを許し虚ろな表情の巨人の選手たちが、自分の姿に重なって見えました。
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巨根のラガーマンに寝取られた妻