第二十四章
その後の田中君の活躍はめざましいものでした。
本来の資質を開花させた彼は国体チームでも中心選手となり、本大会でも決して前評判の高くなかった本県選抜チームをベスト4に導く原動力となりました。さらに、その活躍が認められ、ユニバーシアード七人制日本代表の選考合宿に呼ばれるまでになったのです。
私と妻は彼の試合を欠かさず観戦に行くようになっていました。
そして一試合ごとに成長していく彼の雄姿を我が事のように喜びました。
彼の生活は一変し、多忙を極めるようになってからは、我が家へ来ることもほとんどなくなっていきました。
私も妻も寂しさを感じてはいましたが、それは同時に彼がラガーマンとして順調に成功への階段を駆け上がっていることの裏返しでもあったので、気持ちの折り合いをつけて彼の応援に没頭しました。
田中君にとっての飛躍のシーズンは瞬く間に過ぎ、再び春を迎えました。
突然、彼から電話があったのは大学の春季休暇を目前にした頃でした。
大学の食堂で昼食をとっていたときです。
「お久しぶりです」
「おう、どうした。代表の海外遠征中じゃなかったのかい」
「一昨日、帰国しました。昨日こちらに戻ってきたところです」
「ああ、そうだったのか。疲れたろう、どうだったい、海外遠征は」
「はい、おかげさまで、怪我することもなく、無事に。それで、あの突然で申し訳ないのですが、西村さん、今日か明日の夜、お時間とっていただけませんか?」
「ん、ああ、いいよ。久しぶりだから嫁も喜ぶと思う。今から連絡とってみて、都合がつくようなら今日でもいいよ」
「いえ、その、できれば、外で。二人でお会いしたいのですが」
「それは構わないけど」
田中君の声色にただならぬものを感じ、電話を切った後、少し心が粟立ちました。
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