機器の取付けは昼休憩の少し前に終わったので、私は男を飯に誘った。
テーブルに向き合い、言葉を選びながら世間話をした。
独り者の一人住まい、私たちと生活エリアが近い事に驚いた。休みは水・日、あのロケは水曜だと思った。
テレビで見たとは言わず「どこかで会ったような気がするんだけどなぁ。」と鎌をかけてみた。
私の顔を改めて見つめ「えっ?そうですねぇ、いやぁぁ。」さすがに「テレビを見ました?」とは言ってもらえなかった。
昔はやんちゃしてた感のある容姿、あの手の番組は好きなはず、きっと自分の出た場面も観たはずだと思った。
「あぁ?あぁ!、いやぁ違う違う」急に思い出したような口ぶりふっかけた。
「いやぁ。テレビで観た人が似てたかなぁって一瞬思ったんで。」
「えっ?そうなんですね。あぁ、ねぇ、似た人がいるかもしれませんね。」明らかに男の目がうろたえた。かなり気にしているんだと確信し、男と別れた。
生憎と言うか、幸いと言うか、男の設置した機器は調子が悪かった。
数日後、男をまた事務所に呼ぶことになった。
部品の取寄せで修理は夜までかかった。私はその終了を一人残って待った。
動作確認し終えた後、男を飲みに誘った。男は一度戻り私服でやってきた。
徐々に仕事の話からあの話へ。(以下こんな感じだったような)
「あれね。ビデオに残ってたんで、また観たんですよ。うーん、やっぱり似てるよ。」
「そうですか。それね、僕も観たんですよ。」
「本人?」
「うーん、そうですね。」
「一緒にいたのは彼女?」
「いえっ。違いますよ。知り合いの人で、仕事関係の。」
「いきなり撮られたって感じだったよね。」
「いやぁ、始めは何の撮影だろうって離れて見てたんですよね。知ってる芸人いたし。そしたら目が合って、寄って来てちょっとお願いしますって言われて。テレビかどうかも判らなかったし。」
「だろうねぇ。焦ったでしょ?」
「カメラ向けられてから矢継ぎ早に質問されるんです。聞いて応えるのに必死になると足って動かないんです。もう焦りましたよ。」
「彼女何も言わず逃げちゃったでしょ?あれどうだったの?」
「あれ不味いですよね。あれ撮られてたのは観てから知ったんです。僕はあの後、スタッフの人に呼び止められて、事情を聞いてそれで終わりです。」
「彼女も?」
「後で僕から話しました。テレビに映るの嫌だって言ってましたけどね。でも面白そうだから。」
「そっかぁ。確かにインパクトあったね。」
「あれ悪意ありありですよ。モロ不倫カップルって見せ方で。ツレからも冷かされて。」
「結構冷やかされた?」
「まぁ。自分から観てよって言いふらしたのもあるんで。結構言われてます。」
「じゃぁ仕方ないよ(笑)」
少し沈黙。次の話を切り出した。
「そうだったんだぁ。それならあの日はデートじゃなかったんだ?たまたま2人でいた感じ?」
「一緒に買い物してたんです。」
「それってデートじゃないの?」
「まぁ、デートですね。」
「じゃあ彼女じゃないの(笑)」
「ですけど、でも、まぁ、結婚してる人なんで、色々と。」
「あぁそういうことかぁ、じゃテレビ不味かったかもよ。」
「まぁ、あの手の番組は女は観ないし、彼女も知らないし、気付いてないと思うんです。」
「彼女はテレビに映ったの知らないの?」
「知らないと思います。すぐに逃げたんで映ってないと思ってるはず。」
全容が見えた。
(続きはまた)
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