鍵を開けた。まだ夜中、玄関のドアを静かに締め、鍵をした。
ピンヒールのショートブーツが立っていた。
「ただいま。」久しぶりに声を出した感じがした。
リビングのガラスドア越し、妻が驚いた顔を見せた。
妻はそのまま玄関に、洗い物をしてたのかビニール手袋をしていた。
私は妻の今を記憶しようと必死で見た。
出かけた時の服装だろう。
オレンジのジルクのシャツ、黒のタイトスカートに黒のストッキング。
シャツはその時初めて見た。色鮮やかで今もも忘れていない。
夜中なのに化綺麗に化粧していた。
服に合わせたのか、オレンジ系のリップが光っていた。
「ビックリしたぁ。仕事は終わったの?」と妻は訊いた。
「急に先方の都合で予定が変わったんだ。」とごまかした。
妻はうろたえているようには見えなかった。いつものように微笑んでいた。
「そうなんだ。お腹減ってない?」と妻は訊いた。
「うん、大丈夫。」と応えた。
欲望を抑えきれなくなっていた。妻を凝視し続けた。
「じゃあ明日、じゃなく今日は仕事はいつも通り?」と妻は訊いた。
「いや、休みをとった。」と応えた。
「そう、良かった。」
「うん、良かった」
リビングに入ってソファに座った。
テーブルには普段はない灰皿、3本の吸殻が入っていた。
何も言わなかった。
妻は何も弁解してこない。敢えてはしゃいでもこないし、悪びれもしてこない。
それはさらに私を興奮させた。
「コーヒーいれるから待ってね。」
キッチンに戻った妻は私に声を掛けた。
「コーヒーより冷たい水がいい。」
「うん解った。」
気付いた。テレビの上に写真立て、妻と私が写っていた。
ここで煙草を吸ってたのなら、男はこれを見たかもしれないと思った。
男に対しては、それはそれで手っ取り早くていいなと思った。
妻がグラスを持ってきた。
長くて綺麗な脚がストッキングでキラキラしていた。
妻の手を掴んだ。
「シャワーさせて。」
「させない。」
ソファに引き寄せ、体を入れ替え、押し倒した
ベッドではなく、ここが良いと思った。
全然萎えなかった。
妻も逃げようとしなかった。
期待通り、期待以上だった。
次の金曜日の夜。私は男と会った。
男は解っていた。
私は次のゲームに参加するかを確認した。
(終わり)
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