テルさんはまず妻の子育てをねぎらいます。「男の子2人は大変でしょ。うちも同じだからよくわかりますよ」などと言いながら、妻のグラスにワインを注ぎます。
妻は酒は強くなく、あまり飲めませんが、今日会ったばかりのテルさんの酌は断れる訳もなく、ひとくち、口に含みました。
テルさんは続けます。「リョウは奥さんにやらせてばかりでしょ…こいつが家事なんかやれない男だってことは、俺には10年前からわかってるからねえ」と。
そこで私が「あ?ちゃんとやってるよ。なあ」と妻に言うと、妻は、「テルさん、よくわかってますね。もっと言っていいですよ」とテルさんに言い、みんなに笑いが出ました。
やはり主婦は地道な努力を誉められると喜びます。
みんなの距離感が縮まった感じになりました。
妻は気を良くしたみたいでテルさんのグラスにビールを注ごうとしました。
するとテルさんが、ビール瓶を持っている妻の手を上から優しく握り締め、「あ、俺もワインがいいかな…」と言い、妻の目をじっと見ました。
妻は一瞬そのまま手を止め、テルさんと目を合わせましたが、妻は笑顔ではなく、少し赤くなった真顔で、テルさんと見つめ合いました。そして「あ、はい、わかりました、ごめんなさい」と答えると、ワインに持ち換え、テルさんのグラスに注ぎます。
テルさんは、ワインを注いでいる妻をじっと見つめていましたが、妻はグラスを見ています。俺はあえて黙って2人の様子を見ていました。
少しの沈黙…きっと妻はこの時、テルさんを単なる私の友人ではなく、ひとりの男として意識したと思います…
その後、また他愛ない話をしながら、1時間半くらい、楽しくささやかに飲みました。
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