香苗と連絡先の交換をしてから頻繁にメールするようになった。
その当時は俺の方からメールして香苗が返信するパターンが多かったような気がする。
頑張ってアイス無料提供の誘いを約束できただけあって、最初のメールからすんなりと話を進めることができた。
5月上旬、放課後に香苗が女子の友達と2人で俺のバイト先を訪れた。
香苗は他の従業員になるたけバレないように手を振って笑顔で合図してくれた。
もう1人の友達は香苗よりも少し劣るくらいの可愛さで、香苗のアンバランスでエロい洋梨体型とは違って、スラッとしてて足も細かった。
安産型なのは香苗の方かな、などというスケベな比較をしつつも俺は仲の良い社員の人に許可をもらって、アイス3玉分を2つ香苗の客席に持っていった。
「3個もいいの!?」
「オッケーもらったから遠慮なくどうぞ」
「ほんっとにありがとねっ!」香苗は上の段のバニラの玉にベチョッとしゃぶりついた後に言った。「あ、こっちは3組の亜梨沙」
紹介されたもう1人が「面識無いのにありがとうございます」と礼儀正しく軽く首を振って俺のアイスを受け取った。
香苗の無邪気で活発的な性格とは違って、亜梨沙ちゃんはかなり大人しい性格のようだった。
「いいよいいよ。あんまり頻繁にタダではあげられないけどね。塚原とは1年のときクラス一緒だったの?」
「そうです。中学のときからですけど」
「仲イイんじゃん」
そのとき香苗にメールが届いたようで、彼女はバニラを唾液でドロドロに溶かしながら携帯をいじり始めた。
そこで俺は奴の名前を始めて聞くことになった。
「根岸だ! カラオケ行こうよだって! 亜梨沙もこれから行かない?」
「えっ……根岸君って香苗の……」
香苗が唇を噛み、眉間に皺を寄せて首を横に振ったのを見て、亜梨沙ちゃんは言葉を濁した。
「あ、ゴメン! 軽音部の人だよね? まだ話したことないし、私はちょっと……」
亜梨沙ちゃんはすげぇ焦っていて、俺の表情をチラッと窺った後、俯いた。
根岸っていう名前は、俺と同じクラスの佐々木っていう仲良くなった男から話は聞いていた。
廊下ですれ違ったりするときにあいつが根岸だと佐々木が教えてくれたのだ。
奴はイケメンだった。容姿では俺が勝てる見込みはほぼゼロといっても過言ではないほどのイケメンだ。
髪はパーマをかけたボブで、悔しいが優しげで中性的な顔立ちのためか似合いすぎだった。
根岸は高校生にしては大人っぽい顔つきで、読者モデルも経験していて、ヘアースタイルの雑誌のモデルに載ったことがある奴だった。現に俺は奴が載ったその雑誌を佐々木から見せてもらった。
奴は性欲がかなり強く女癖が悪いようで、付き合っていても他の女子に手を出してしまうチンポマンだということも佐々木から聞いた。
バンドでドラムをやっていたし、あれだけ顔が良ければ女子にはまず困らなかったんだろうな。
休み時間に根岸が俺の教室に入って来て「やべぇよ、誰かジャージ貸してくれー」と言って困っていたことがある。
そこに香苗が歩み寄って自分のジャージを貸したのだ。俺が通ってた高校は男女ジャージの色は一緒だった。今もたぶんそういう学校多いと思うけど。
香苗の表情は俺に見せるそれと違って、少し色気があって発狂しそうになった。
香苗と根岸って付き合ってるんじゃないか?と思うくらい親密な感じだったのだ。
俺はそれだけで嫉妬で胸が張り裂けそうだった。
香苗が今、根岸の名を口にしてから意味深なやりとりを目撃し、俺の心拍数が少し上昇した。
「えー? 行こうよー!」
香苗は亜梨沙ちゃんの遠慮気味の苦笑いを見てちゃっちゃと決めてしまった。香苗はウジウジしている人間が嫌いだった。
「あー、もういいよ、どうしてもダメならあたし1人で行くから」
香苗はスクールバッグを背負い、立ち上がった。黒と白の水玉模様のバッグには大きめのテディベアのぬいぐるみがぶら下がっていた。
ブレザーの制服とめっちゃ似合ってた。
「ゴメンね! また今度女子と行くときにでも誘って」
「りょーかい! 雅之、今日はありがと! アイス無料券みたいの100枚くらい作ってよ」
「100枚はねぇよ!」
この頃から既に俺を〝君〟付けで呼ばなくなっていた。香苗の冗談はかなりオーバーでときどき俺を困惑させる。
バイトから帰宅後、俺はやっぱり香苗と根岸の関係が気になって香苗にメールした。
【香苗って根岸って奴と付き合ってんの?】
若干ストレートすぎる質問な気もしたけど、香苗は回りくどいのを嫌う女子だったからあまり深く考えずに送信した。
9時少し過ぎでまだカラオケの最中だったと思うけどすぐに返事が来た。
【付き合ってないよ(笑いの顔文字)どうして!?】
かなりホッとした。俺もすぐに返信した。
【いや今日なんかそれっぽい雰囲気だったから。ならいいや、カラオケ楽しんで!】
その頃には俺と香苗とのメールの回数は尋常じゃないくらい増えていて、誰かが携帯の受信ボックスを見れば、こいつらは付き合っていると錯覚するほどに進展していた。
香苗はどんなことがあってもかならず返信をし忘れることがない几帳面な女だ。
それは夫婦になった今でも変わらない。
そんな香苗が他の男と仲良くなっていたことをそのとき初めて知って複雑な思いになった。
香苗が根岸とカラオケに行った日から俺の中で何かが変わり、電話でもメールでも下校中の会話でも、香苗の深い部分に迫るようになっていった。
そんな俺の情熱を察知したのか、香苗もそれに共鳴してくれるようになり、6月の下旬に俺はついに告白を決意した。
下校中、お互いの帰路に就くために別れる間際、俺は香苗に言った。
「俺と付き合ってよ」
人生で初めての告白だった。
「……え?」
鼓動の音が痛いくらいに伝わってきて、どうにかなりそうだった。真面目な表情で言ったつもりだったが、後に香苗からその話を聞くと、かなり心配そうな表情をしていたらしい。
香苗も突然のことに切羽詰まってしまい、俺から視線を逸らして俯いてしまった。
30秒くらいに感じられた長い沈黙の後、香苗が言った。
「ちょっと考えさせて」
俺は腰が抜けそうになるくらい緊張していて、ロクな返答ができず「わ、わかった」と震えた声を出した。
「じゃあまた明日な」
「うん。またね」
そのとき香苗は上目遣いで俺の表情をよーく確認していたのを覚えてる。
帰宅後、俺はずっと香苗からの連絡を待ち続けた。
飯の最中も携帯は手放さず、風呂の中にまで持ち込んだ。
深夜になっても香苗からの連絡は無く、結局その日は朝方の睡魔がくれた1時間ほどの睡眠しかできなかった。
7時過ぎ、朦朧とする意識の中、メールが1通届いた。
その着信音で眠気が一気に吹っ飛んだ。
心臓がドックンドックン暴れ出して、震えながら受信ボックスを見ると香苗からだった。
件名:昨日の返事。
【あたしで良いなら全然OKだよ(ハートの絵文字)
大事な約束なんだけどあたし達が付き合ってることを他の人に言わないでほしいの。
あたしあんまり騒がれるの好きじゃないから。大丈夫?】
俺はその最初の一文を見た瞬間、これまでの人生で味わったことのない浮遊感と高揚感を味わうことになった。
体の隅々を巡る光が覚醒し、膨張していく幸福を翼に変え、今すぐにでも窓から飛び立てそうな勢いだった。
不可能なことなど何もない超人になった気がした。
【もちろん秘密にするよ! ありがとう! めっちゃ嬉しい!】
登校後、教室に入ると香苗が席に座って隣の友達と話している姿を確認できた。
昨日のお笑い番組について話しているようだった。
すごい楽しそうで、これほどまでに笑顔が可愛い女の子は他にいないだろうと思った。
爆笑すると引き笑いで窒息しそうになるところも俺は今でも好きだ。
俺が自分の席に座ると、香苗が気配に気付いたようで、「おはよー!」とこれまでにないくらい明るい挨拶をしてくれた。
なんだか照れ臭くて挙動不審になりつつも「お、おはよ!」と返事をした。
ホームルームまで10分くらい前だったからかもしれないけど、大胆にも香苗は俺の手を引いてきた。
「来て!」
俺は転びそうになりながらも、幅のある大きな渡り廊下まで連れ出された。
「今日からよろしくね」
ニヤッと笑って香苗はそう言った。
あの笑顔はあの日のあの時間に、あの場所であの関係じゃないと見ることができない女の笑顔だった。
「こっちこそよろしく!」
俺は香苗の見た事もない笑顔を目にして心でガッツポーズをすると同時に不安も生まれた。
これまで俺は一度も女子と付き合ったことがなかったためか、何か良く分からない感情を体感していたためだ。
付き合っているということは、当然あの行為──理性を解放し、普段隠している動物の本能を剥き出しにして、恥ずかしい部分を結合し、気持ち良くなるアレだ──をすることもできるかもしれないワケで。
付き合い始めた当初はかなり不安定な気持ちになっていた。
〝一匹のオスが初めて交尾のチャンスを得た〟という衝撃的な事実により、交感神経が刺激されたからかもしれない。
その日も佐々木の席で佐々木と昼飯を食っていたが、飯が喉を通らず「何かあったんか?」と心配された。
香苗との約束は守るため「ちっと歯が痛くてな」と顔をしかめて頬を触り、誤魔化そうとした。
だけど俺、演技はてんでダメで笑ってしまい「なんだよ! なんかあったんだろ? 教えてろよー」と首に腕を巻き付けられながら茶化されたな。
それからの俺と香苗の恋愛はもの凄い速さで進展していった。
俺には香苗しか見えなかった。
そして俺は夏の鼓動を感じ始める7月に、初体験を迎えた。
プライベートセックス、婚約後の寝取られは次の投稿で公開する予定です。
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