新しい競技?何だそれは?俺が尋ねると高橋は笑い出し、楽しくて仕方ないと云った口調で返してきた。
まぁここで全部話せる内容じゃないんですけどね。貴方がその気にさえなれば、その競技のチャンピオンになれる事は保証しますよ。
それにね。貴方にとっては復讐劇でもあるんです。復讐っていうのは、どんな人間にも蜜の味がするんですよ。
俺が?誰に何の復讐をするって言うんだ?
俺は横で酒を啜る高橋に尋ねた。
ははは。貴方はどうも人が良いふりが上手だ。
世の中、復讐したい相手が居ない人間は居ないんですよ。どんな聖人君子でも何かしら生きてりゃ抱え込むんですよ。
抱え込んでいるモノが無い人間ってのは余程の馬鹿か復讐を既に達成した人間ですよ。
貴方だって何か抱えてるでしょう?
俺は高橋に答える代わりに目の前の酒を煽る。
復讐を考えるほどの恨みは抱えちゃいないけどね。俺は絞り出すように高橋に言った。
高橋は俺に微笑んで言った。私と組んだ人間は皆、最初にそう言うんですよ。
そういう人間は復讐する手段を持ってないから考えないようにしているだけなんですよ。
貴方が復讐の手段を手にしたら、自分の本当の姿に気が付きますよ。貴方みたいな人間の復讐劇は大衆受けするんです。貴方は支持されて孤独じゃ無くなりますよ。
今、決めてくれという話じゃ無いんです。
少し考えてみてください。これが私の連絡先です。
と言って高橋は俺に名刺を差し出した。
高橋企画と書いてある。俺はそれを受け取った。
高橋はニコリと笑って言った。
私の話に乗る理由は貴方にはゴマンと有るんですよ。貴方の復讐はもう始まりましたよ。
明日、夕方電話ください。私はここで失礼します。
そう言うと高橋は札を店の初老女性に握らせ、こちらの先輩にお酒出してくださいと言うと俺に頭を下げて通りに消えていった。
なんだよ。随分と羽振りの良い知り合いじゃねーかよ。この店でタキちゃんと呼ばれている常連のすえた匂いがする男が酒臭い息を吐きながら俺の隣に近づいて言ってきた。
店のおばさんが俺にあの人、一万円札渡してきたよ。これお釣り。と渡してくる。
俺は隣の物欲しそうな赤ら顔の男に、釣り銭分呑まして釣りがあったらやってくれと言った。
隣のホームレスの様な男が汚い歯を見せて喜んでいる。エヘヘ旦那、悪いねと言いながら俺に何やら話しかけて来たが、俺は男が去って行った暗闇を見つめてひとり考え込んでいた。
※元投稿はこちら >>