人を騙す才能?俺は思わずオウム返しに高橋に声を上げた。何だそれは?アンタに俺がどう見えてるのか知らねぇが、俺は人を騙すコトなんかしてねぇぞ。
高橋は声を荒げた俺に落ち着き払って言った。
ええ。今まではね。今まではお兄さんいや貴方は自分を騙してきた。その歳までご自分を騙してくるのは大変だったでしょう。
自分を騙せる人間は、他人を騙すのも上手いんですよ。
高橋さん、あんた何なんだ?喧嘩でも売ってるのか?俺は流石に腹を立てた。
高橋はそれでも尚、続けた。
立腹するのも尤もです。失礼を承知で言ってるんです。だけどね。人を騙すって言い方が悪ければ、人をその気にさせるとでも言いましょうかね。
貴方が一番分かってらっしゃると思いますがね。世の中、要は金なんです。金ってのは有る人が持っているわけで、持って無いやつは持ってないんですよ。当たり前ですけどね。
だから金ってのはある奴からしか取れないんですよ。ない奴から幾ら取ろうとしても取れないんですよ。貴方は今まで金を持って無い人間しか相手にして来なかったから才能が活かせなかったんですよ。
つまり未だ試合会場にすら行った事が無い選手の様なもんです。更に言えば貴方は何の競技に出たら良いのかも分かっていなかったんです。
そこまで言うと高橋は空になった俺のグラスに目をやり、おばさんもう一つお代わり下さいと先程の店の初老女性に札を握らせる。
受け取ったカップ酒を開けると高橋は俺にそれを寄越して、考えて見てくださいよ。
貴方より才能が無い人間が上手くやって貴方より全然良い暮らしをしている。
俺の頭に東京で外車を乗り回し、家族と暮らす親友の顔が浮かんだ。俺はその幻影を振り払うように被りを振って高橋が寄越した酒を煽る。
俺は口の端から溢れた酒を拭って高橋に尋ねた。
で、俺は何の競技に出りゃ良いんだ?
高橋はニヤリと笑って応えた。
わたしが始めた新しい競技ですよ。
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