その日、牛丼屋は外国人留学生2人と俺の3人シフトだった。彼らはアジア系で意外と真面目な人間だったがやはり日本人の感覚からすると仕事が雑に思えた。
彼らは容器に汁がたれたり、食材がはみ出しても気にしないで、無造作にそのまま客に渡してしまう。
俺にはそれが許せない。
彼らが作った彼女の注文の品の容器の汚れや不具合を出直して袋に詰め始めた時だった。
お姉さん!明らかに酔っている男の大きな声が店内に響いた。見ると白いブラウスの彼女の両隣り、彼女の真後ろに3人の若いサラリーマンが彼女を取り囲む様に座っていた。
お姉さんみたいな綺麗な人も牛丼食べるんだ。
何頼んだの?良く来るの?家近いの?
酒を飲まなければ、大人しそうな3人だ。酒が入ってだいぶ気が大きくなっている様子だ。
歳を取るとこの手の酒を呑んでイキっている若者を見ると煩いとか迷惑だと思う前に、見てて恥ずかしくなってしまう。
本来なら店側の人間として彼女を守らなければならないのだが、俺は酒を飲んでイキっている若者を正視出来ず視線を外らせてしまった。
留学生スタッフの1人、身体の大きな男が直ぐに彼らに駆け寄り、お客さま他のお客様にご迷惑が掛かりますので、もう少しお静かに願います。
店舗回りの社員から言われているマニュアル通りの注意を多少の辿々しい日本語で伝えた。
彼女の隣に座って大きな声で話しかけた自分ではイケメンだと思っている事が滲み出る慇懃な感じのする男が留学生店員に言い返す。
は?何て言ったの?今の日本語?
ちゃんと言わなきゃ分からないよ。と仲間達と大笑いした。
留学生は生真面目にもう一度、同じセリフを今度はゆっくりと正確に発音して繰り返した。
男が、日本語上手いじゃん!大きな声で言い返す。
分かった、分かった。と言ったそばから女性に向き直り、怒られちゃったと言ってゲラゲラと笑い、今度はヒソヒソ声で彼女に顔を近づけて話しかける。
女性の嫌がる態度を見て、留学生は正義感からやめてください!と言って女性と男の間に、男を制するように手を伸ばした。
男は何かされると勘違いし、ビクッと大きくのけぞった。その拍子に机に置いた鞄が落ちた。
カシャーン。と金属音が店内に響いた。
男が慌てて、鞄からずり落ちたタブレットを確認する。
男はタブレットを握って、留学生に怒鳴った。
お前、どうするんだよ!ヒビ入ってるじゃねーかよ!
男が留学生に突き出したタブレットは液晶の端が割れてヒビが入っていた。
俺は、牛丼の袋を置いて彼らの方に走った。
お客様、申し訳ありません。お怪我は無いですか?尋ねる。男はふざけんな!壊れてるし!何これ?あり得ないでしょう。と俺に怒鳴った。
俺は申し訳有りません。直ぐに本部に連絡させていただきます。会社が責任持ってご対応させていただきます。と言った。
すると男は、はぁ?本部?お前社員だろ、お前が対応しろよ!と言ってくる。
男は、え?ジジイ、お前社員じゃないの?え?その歳でバイト?何それ?と言って爆笑し始めた。
俺は屈辱で、その場に普通に立っている事がやっとだった。留学生の本部に電話します。の声でやっとなんとか冷静を取り戻し、私がしますと留学生に伝えた。
男が、ちゃんと出来るの?俺が電話しようか?と言ってせせら笑った。
俺は馬鹿だ。こんな酔客の挑発にキレてしまった。
出来ますよ!そんな言い方は失礼じゃないですか?それにお客さんが酔って大きな声で、他のお客様に迷惑を掛けたのが原因なんですから。
俺がそれだけ言うと、3人組の立っていた男がスマホを俺に向けている事に気がついた。
俺が動画なんか撮らないでください!と言ってもカウンターの外で俺にスマホを向けたままニヤニヤと笑っている。
撮るなー!俺が叫ぶ。
店内は大騒ぎになる。他のテーブル客から警察電話した。警察呼んだと聞こえてきた。
店内は留学生と3人組が大声で言い争い混乱を極めた、女性は立ち上がり落ちついてください!とか叫んでいたように思う。
暫くして2人の警官が店内に入ってきた。
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