警官は1人が背の高い若い男、もう1人が小太りの年長者だった。店内に入るなり、どうしましたか?通報された方はどなた?と聞いてくる。
テーブル席の客が立ち上がりこちらに歩いて来た。
先ずは通報者に状況説明を求める。
テーブル客は大学生風の若い男。3人組が口々に喋り出す。若い警官が後でお兄さん達の話は聞くからと言っても酔った3人は騒いでいる。
年長の警官が俺に顔を向けて、お店の方?店長さん?と聞いてくる。
3人組は、違うよ!コイツはただのバイトだとか俺を指差して笑いながら言った。警官は3人組のこの態度で全て察したようだった。
何人かの客がすみません、お勘定したいんですけどとレジ前で言っている。俺は警官にことわってレジに行く。
若い警官は話を外で聞くと言って3人組を外に連れ出した。レジ作業を終えて戻ると年長の警官が通報者の話を聞きながらメモを取っていた。
俺が戻ると年長の警官は通報者の話を端的にまとめて店側の俺たちに確認しながら事実確認をした。
俺たちは通報者の話に間違いが無いと認めた。
そんなやり取りをしてる最中に留学生が連絡したチェーン店本部の人間が慌てて入ってきた。警官に名刺を渡している。
その最中、若い女性が入って来た。店内で放心状態だった白いブラウスの女性を認めて駆け寄った。
社長大丈夫ですか?何があったんですか?
社長と呼ばれた女性は若い女性に大丈夫よ。酔っ払いの喧嘩。それより牛丼持って行って。あのーすみません。俺に声を掛ける。
俺は申し訳有りません。ご迷惑をお掛けして、今作り直します。と応える。
警官にことわり、厨房に入って牛丼を作り直す、本部の人間も状況を察し女性客に謝罪してお代は結構ですと牛丼を若い女性に持たせた。
警官が申し訳無い。と白いブラウス客に声を掛ける。申し訳無いですがお客さんだけ、もう少し残って貰えますか。
女性は溜息をつくと若い女性に先に事務所に戻るように指示した。
それから小一時間程、事情聴取的な事をされ、本部の人間ご改めてタブレットの男に連絡をするという事で終わり、疲れきった様子の女性客に丁重に詫びて見送った。
店仕舞いをしていると女性客の座っていたあたりにピアスが落ちているのを見つけた。
俺はマニュアル通りにそれを処理して店内の棚に保管する。
留学生達が挨拶して出て行く、俺も続こうとしたが本部社員に呼び止められて社内用の報告書を書かされた。結局俺は家で休憩する事無く弁当屋の仕事に向かった。
弁当屋の配達を終えてクタクタになった俺はアパートに戻って着替えすらせず泥のように眠った。
夕方、携帯のアラーム音で目覚めた俺はシャワーを浴びていつものように牛丼屋に向かった。
昨日の騒ぎなどまるで無かった様にいつも通りの作業が俺を待っていた。その日は近所の予備校で何かがあったらしく高校生達が大挙して訪れ目が回る忙しさだった。
10時過ぎにやっと客足が途絶えた。
俺が昨日と同じ留学生スタッフに昨夜は災難だったねと話しかけ雑談をしていると昨夜の白いブラウス客が入って来た。
俺の姿を認めるとこちらに歩いて来た。
昨夜はごめんなさい。私を守ってくださろうとしてあの騒ぎになったのに、私、すっかり疲れとろくにお礼もしないで帰ってしまって。あのあと大丈夫だったのかなって気になって。
と言って俺たち3人に小さな紙包を渡して来た。俺たちは一旦丁重に断ったが、好意を素直に受け取った。
俺はピアスの事を思い出し、お客様こちらお忘れじゃないですか?と差し出すと彼女はパッと表情を明るくし、良かったー。ここで落としたんだ。これお気に入りなんです。良かった。と喜んだ。
喜ぶ彼女を見送る。
百貨店の紙包の中身はハンカチだった。
この日以来、彼女は自分の経営する設計事務所スタッフの夜食を買いに来るたびに俺に挨拶をして、牛丼を待つ間会話を交わす様になった。
そんな会話を交わすようになったある日、今の仕事は物流会社のセンターの仕事なのと彼女が言った。
俺は物流センターという昔の仕事に馴染みのある言葉に反応し、どこの物流センター作ってるんですか?と尋ねた。
彼女が返した会社名は、俺の勤めていた会社を吸収した会社だった。
これが全ての始まりだった。
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