何ですか?何か嫌な事があったんですか?俺は努めてさり気なく聞いたつもりだったが陽子は微笑みをふと消し去り表情を曇らせた。
俺は慌てて、すみません立ち入ってしまって。せっかく来て頂いたのに。これ常連さんが昨日差し入れてくれたんですけどめちゃくちゃ美味しいんです。良ければどうぞと営業職で毎週の様にあちこちの出張土産を買って来る常連客の置いていった海鮮品の入った煎餅を差し出した。
陽子はにっこりと微笑み、それを受け取る。へー変わったお煎餅ねと小さな蛸が焼き付けられた薄焼きの煎餅を齧った。
美味しい…。
陽子は寂しそうな笑顔で呟いた。
俺は思わず何かあったんですか?とまた聞いてしまった。慌ててごめんなさい。余計な事聞いて、今日も歌いますかー?陽子さん、歌上手でしたねー。こないだデュエットして貰ったカジさん、凄い喜んでましたよー。俺はカラオケのデンモクをカウンターに置いた。
陽子はそうねー。パーっとやろう!と言うとデンモクをいじり始める。
こないだのあいみょん歌って下さいよ。うちの店、オジサン、オバサンしか来ないからあいみょんなんて初めて流れましたよー。
うそー。あいみょんは歌う人居るでしょ槌陽子はケラケラ笑う。俺は陽子の笑顔を見て少し安心した。
あいみょん…デンモクをいじる手をふと止め、曲のリスト画面を見つめたまま陽子は他人事の様に抑揚のない声で言った。
旦那が不倫してた…。
マイクを用意していた俺は驚き振り向くと、陽子がデンモクの上に大粒の涙をこぼした。
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