店に勢いよく入って来た陽子は明らかに酔っていた。カウンター席に滑り込む様に座ると俺の顔を見てニッコリと笑う。
良かったー。ここだ!店の中は覚えてたけど外はあまり覚えて無くて、たぶんここだって賭けてみたの。違ってたらサイナラーって出て行くつもりだったの。
ケラケラと笑いながら陽子は一気に捲し立てた。
俺は陽子さん、いらっしゃい。店を覚えて頂いてて嬉しいですなどと答えた。
陽子は少し飲み過ぎちゃったと言ってカウンターに頬杖をつく。俺はお水飲みますか?と尋ねたが陽子は大丈夫。こないだ、最後に新しいボトル入れて帰ったよね?と尋ねてくる。
俺は、はい。入れて頂きました。お茶割りで大丈夫ですか?と尋ね、ごく薄い茶割りを陽子に差し出した。
マスターも飲まない?陽子はトロンとした目でカウンターから俺を見上げる。
何かの集まりの帰りなのだろうか陽子は、薄いグレーの襟なしの上品なワンピースに、薄手のベージュのスプリングコートを羽織っている。
少し開いた襟ぐりから覗く胸元は真っ白な肌で俺は年甲斐もなく少しドギマギした。
コートお預かりしましょうか?俺は陽子の眩しい胸元から目を背けながら尋ねる。
陽子が、はーい。お願いしまーすとおどけた声で応え柔らかい布地のコートをスルリと脱いだ。
半袖の袖口から白く艶やかな腕がしなやかに伸びている。俺はカウンターから出てコートを受け取りハンガーを壁に掛ける。
カウンターに戻る俺に陽子が声を掛ける。ねーマスターも呑もうよー。前回来た時は上司と一緒だったからだろうか明るい陽気な気質は見てとれたものの、落ち着いた三十代半ばの女性に見えた陽子だが、酔った今夜の陽子はもっと若く見える。
俺は自分の茶割りを作り、じゃあ遠慮なく頂きますと陽子のグラスに自分のグラスを当てた。
どちらかで呑まれていたんですか?俺が尋ねると陽子はケラケラと笑いながら、はい!呑まれていましたよーっと答え茶割りを煽った。
俺が大丈夫ですか?ゆっくり飲みましょうとチェイサーの氷水のグラスを差し出すと、酔ってるよね。ごめんなさい。だって色々嫌なことがあったんだもんと陽子は短いため息をついた。
陽子はその明るい気質そのままの容姿の女だった。高校までバレー部に所属していたという彼女は目元がはっきりした表情が豊かな可愛らしい顔だちと活発さを感じさせる肩口で毛先が跳ねるショートカットのボブ。抜ける様な白い肌。魅力的な容姿の女性が気取らない人懐っこい仕草で酔って話しかけてくる。
俺はなんとか平静を装いながら陽子と会話した。
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