えっ?
陽子は驚きの表情を浮かべて俺に振り返った。
帰らなければ良いじゃないですか。
俺は咄嗟にもう一度同じ台詞を繰り返した。
陽子は俺の表情を窺う様に見つめながら、でも…帰らないと…と呟く。
俺は陽子を咄嗟に背後から抱きしめていた。
帰らなければ良い。俺は陽子をきつく抱きしめながら呟く。彼女の胸の上で交差する俺の腕を陽子の右手が掴む。
有難う。でも帰らなきゃ。
陽子さん、傷ついてボロボロじゃないですか。何があったか分からないですが、こんな目に合わせる様な男の元に帰したくない。俺は抱きしめた腕を解いて、彼女の肩を掴んでこちらに向き直らせた。
2度しか会った事無いけど、俺には分かります。
あなたは素敵な人です。幸せになるべきです。
俺は40近くにもなって家庭も持てない馬鹿だけど、もし貴方みたいな人と一緒なら、もっと一生懸命生きて貴方を大事にする。決して貴方をこんな風に傷つけたりしない。
俺はそれだけ一気に吐き出すと傷つきなお気丈に明るく振る舞う愛おしい女性を強く抱きしめた。
陽子は俺の腕の中で子供みたいに声を上げて泣き出した。
あいつ結婚前から私を裏切ってたの!
向こうの女には子供もいるの!
わたし、悔しくて。馬鹿みたいで。今まで何だったのかって。俺の胸にしがみつき絞り出す様な声で言う。
俺は陽子の背中をさすってやった。しゃくりあげる陽子。俺は愛しさが込み上げてきていた。
彼女の髪を撫でる。熱く泣き腫らした顔を撫でて顎を上げさせる。溢れる涙、目元が真っ赤だ。可愛い唇から少し荒い吐息が漏れている。
俺は彼女に口づけした。陽子との最初のキスは涙でしょっぱいものだった。
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