俺たちはそれぞれシャワーを浴び、身支度を整えるとインチキな南国ムードの部屋を後にした。
ラブホテルのエレベーターの中で俺はカオリにところで昨夜はしたのかな?と尋ねた。
カオリは貴方ってスーツ着たままセックス出来る特技でも持ってるの?と返してきた。
俺たちは表通りに出ると目についた定食屋のチェーン店に入った。それぞれに食券を購入しテーブルに着く、カオリは店員が運んできた水のグラスを差し出し、あらためて乾杯。よろしくね、ユウちゃん。と言ってきた。
俺はカオリのグラスに自分のグラスを合わせて、乾杯。カオリさん昨夜は有難う。ところで聞くのが怖いんだけど昨夜の事聞かせてくれる?
店員が俺たちが頼んだ定食を運んでくる。カオリは店員に礼を言いながら俺の顔を見てクスクス笑う。
全然、何も覚えていないの?
俺は、恥ずかしい。なんとなく君とバーで笑い転げていた事とか、ラブホテルに行っちゃおうみたいになってふざけながらホテルに入ったこととかボンヤリ全体的には覚えているんだけど細かいところがあやふやでと答える。
あら。じゃあ昨夜の1番のハイライトを覚えていないの?と言って左手を上げる。カオリは指から指輪を引き抜くと、これはちゃんとしまっておいて、いつか、ちゃんとした彼女が出来た時に渡してあげて。カオリはそう言って俺に指輪を手渡してきた。
俺は指輪を受け取って暫く眺めた。この指輪を渡したら夏美は笑顔を見せて涙ぐむはずだった。
現実は涙ぐむどころか突っ返され、今は初めて会った女に大事にしてと手渡されている。
俺は指輪をジャケットの胸ポケットに入れると朝定食の納豆をかき混ぜながら、我ながら可笑しくてかぶりを振った。
カオリは楽しい女性だった。会計士をしているという彼女は時折とびきりの笑顔を見せて俺の話を聞いてくれた。カオリの話によると俺は昨夜、時折彼女が仕事帰りに寄るというバーに12時近くにフラッと1人で入って来たのだという。
カオリの隣のカウンター席に座るとビールを頼み、いきなり指輪を取り出して、今日僕はプロポーズをしたんですが思い切り断られましたと言って俺は大笑いをし始めたそうだ。
それからバーテンダーやカオリ、常連のカップルと本当は今頃幸せの絶頂の筈だったのにと言う話を面白可笑しく話し出し、閉店まで店全体を巻き込んでの独壇場だったらしい。
閉店で店を出ると先に勘定を済ませて出ていた俺が店の前で指輪を眺めて突っ立っていたらしい。カオリがお兄さん、大丈夫?と声を掛けるとさっき迄の勢いは何処へやら。何がいけなかったんだろう。俺たちの付き合いって何だったんだとうずくまったらしい。
面倒見の良いカオリは酔い覚ましにと近くに朝方までやっている居酒屋に俺を連れていってくれ、そこで俺はウーロン茶を何杯もガブ飲みし、カオリさん有難う。これは今日のお礼です。もう渡す女性も居ないし、持ってても仕方ないからと手渡したらしい、その後何度も要らないと言ったが頑として俺が受け取らず、無くしてはいけないと指に嵌めたとの事だった。
そうこうしてる間に飲み物のラストオーダーと言われて、最後に飲み直そうよとラスト三杯づつはいけるでしょと俺が店員にそれぞれにウーロンハイ3杯づつとオーダーして、すっかり2人で店が閉まるまで盛り上がり、店を出て通りに出たもののタクシーがつかまらず駅前まで歩こうになり、道すがらにラブホテルを見つけ、泊まっちゃう?というノリになったと言うことだった。
俺は頭を抱えて、いやー酷い。すみません酔っ払いに付き合ってもらってと頭をかいた。
やっぱり指輪くらい渡さないとお詫びにならないと笑うとカオリは、そうね。考えてみたら指輪貰う権利あったかなぁ。昨日の酔っ払いかたは。とケラケラと笑う。
でもさぁ。指輪受け取るワケにいかないのよね。
日本だと犯罪じゃない?重婚って。
わたし実は人妻だったりするのよねと言って破顔一笑する。
俺は、今まさに飯を口に放り込もうとした箸を止めて口をあんぐり開けて彼女を見る。
カオリは可笑しくてたまらないといった具合に文字通り腹を抱えて、そうなの。信じられないでしょ?でも可笑しいの。実は人妻なんだよねぇと笑っている。
俺は激しくむせた。
慌てて茶を啜って、なんとか息を飲み込み、結婚してるんですか?とやっと声を出した。
カオリは返事をする代わりに魅力的な笑顔を見せて俺に頷いた。
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