あのね。誰にも言わないでね、みっともない話だから。ママは涙ぐみながらカウンターから出ると俺の隣に腰掛け、少し間を空けてからポツポツと話し始めた。
3週程前の先月の金曜日、常連客とコンサートに行く事になったママは手伝いのトモちゃんに開店準備やコンサートが終わり次第戻るママが不在の間の店の営業を頼んだそうだ。
しかしながら週末は常連客で早い時間から満杯になる店だ、学生アルバイトのトモちゃんだけでは荷が重いと考えたママは旦那の哲夫さんにトモちゃんを手伝うように頼んだのだと言う。
しかしそこで事件が起きたらしい。ここ2週間程週末にバイトを休むトモちゃん。バイトを休む理由がどうも何か歯切れが悪い、ママがハッキリ言ってくれと迫るとバイトを辞めたいと言い出したそうだ。
ママは店の常連客の娘が、ママの知らないところで他の常連客とトラブルが起きた事を心配して辞めるのは構わないが何があったのかハッキリ教えてくれと迫ったところ、ママがコンサートに行った夕方、開店準備を旦那の哲夫としていた時に哲夫にセクハラまがいの事をされた事を告白したのだと言う。
セクハラまがい?と俺はママに尋ねた。
ママは涙ぐみながらキスを迫ったんだって。自分の娘みたいな歳の女の子に、いい歳したおっさんが何回もキスしようとした上に、お小遣いを渡すからって言い出したんだって。私、情けなくて。
ママは声をあげて泣き出した。私、もう情けなくて、恥ずかしくてトモちゃんに謝って…
電話切ったあと、直ぐに哲夫に問いただしたら、俺そんな事してない、俺は知らないって。
その顔見てたら、なんでこんな男と夫婦やってるんだろう、情け無い。恥ずかしいって…
俺は内容が内容だけにママに掛ける言葉も無かった。そんな事があったんですかとママの涙声で震える肩を抱きしめて声を絞り出すのが精一杯だった。
ママはしゃくりあげながら、誰にも言わないでねと繰り返した。俺はママの肩を軽く叩いて勿論ですよて答えた。
ママは俺の胸に顔を埋めて暫く情け無い、みっともないと言う言葉を繰り返した。
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