しばらく当たり障りのない会話をしながら飲んでいたが、白髪のバーテンが氷を持って膝を着きテーブルに置いて俺と目が合うと驚いて固まった。
『キョウコちゃん、こ、これは…』
バーテンが何か言いかけるとキョウコさんはケラケラ笑った。
『やあねぇ、よっちゃん。オバケでも見るような顔して私のケンちゃんに失礼よ』
『ケンちゃんって…、俺は夢でも見てるみたいだ』
キョウコさんは人差し指を唇の前に立てて
『あんまり騒ぐと夢が覚めてケンちゃんがいなくなっちゃうわ』
と言って俺の腕に抱きついた。俺は調子に乗って
『心配ないよ。俺はずっと一緒にいるさ』
と言ってキョウコさんを見つめた。
バーテンはママと顔を見合わせていたが、やがてカウンターの中に戻っていった。ママはさりげない会話の中から俺の素性を探っているようだったが、キョウコさんから素性や関係などあまり細かい事は話さないよう言われていたので適当に誤魔化していた。しかし、酔いがまわるうちに段々と良くしゃべるようになった。俺はスケベなジジイどもからキョウコさんを守るつもりで来ていたが、店の雰囲気からはとてもそんな客がいるようには思えなかった。3杯目の水割りを飲み終わる頃にはそんな役目はすっかり忘れて、周りの紳士風のおっさん達とも仲良く楽しんでいた。俺はくだらないギャグやモノマネでむしろ人気者になっていた。キョウコさんもケラケラと良く笑っていたが、カウンターの中のバーテンだけは難しい顔をしていた。やがて酔ったキョウコさんが他の客に混ざって踊り出した。ジルバかルンバかのステップで50代ぐらいの紳士風のおっさんとノリノリではしゃいでいた。ディスコ世代の俺には到底出来ない踊り方だ。キョウコさんは自分からおっさんに身体を密着させて踊っているように見えた。俺は嫉妬したが、楽しそうに踊るキョウコさんがカッコ良くて黙って見ていた。他のテーブルを忙しく回っていたママが俺の様子を見てか、また目の前のスツールに座った。
『あんなにはしゃいでいるキョウコちゃん久しぶりに見たわ。あなたといるのがよっぽど嬉しいのね』
『へへへっ、そうかなぁ?そう思います?』
俺はおどけて照れ笑いしながら頭を掻いた。
『フフフッ、そうよ。私も嬉しいもの。懐かしい人に会えた気がして…』
『懐かしい人?俺さっきから気になってたんですけど、みんな俺を見て驚いてる感じがして…。俺、誰かに似てるんですか?ひょっとして、キョウコさんの亡くなった息子さんとか?』
『まさか?あの子は亡くなった時中学生よ。キョウコちゃんに良く似た美少年って感じの子だったわ。あなたが似てるのはその子のお父さんの方よ』
『え?お父さんって、キョウコさんの旦那さん?』
『やっぱり。思った通り。あなた何も知らないのね』
『はい。何にも知らないみたいです。どういう事か教えてください』
俺ははしゃいでいるキョウコさんを横目に身を乗り出した。
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