店の中は思ったより広かった。祝い札の付いた生花や蘭の鉢が何個もあった。ボックスシートが8席程ありカウンターバーもあった。カウンターの中では白髪のバーテンが氷を割っていた。店内は満席で、ドレスを着たホステスが10人はいた。小さなステージがあり、中央では音楽に合わせて客とホステスが踊っていた。スナックと聞いていたがクラブと言っていい大きさだった。ひとつだけ空いていたボックスシートに案内されて座るとママが正面のスツールに座り、俺の顔をじっと見て
『いらっしゃいませ。ママのユウコです』
と言って角の丸い小さめの名刺を出した。俺は少し戸惑いながら
『あっ、ど、どうも、俺、いや、私あいにく名刺を…』
『フフフッ、やぁねえ、ケンちゃん何緊張してるのよ』
キョウコさんが俺の隣で笑い出した。
『いやっ、だって、ママさんがじっと見るから…』
『あら、ごめんなさい。私つい…。ケンちゃんって、キョウコちゃん、これってどう言う事?』
ママはキョウコさんを見て目をパチクリしていた。キョウコさんはママにウインクしながら
『フフフッ、驚いたでしょ。私のケンちゃんよ』
と言って俺の腕に抱きついて頭を傾けて肩に乗せた。俺はママの態度に違和感を感じながらも、必要以上にいちゃついてくるキョウコさんが可愛く思えた。ママは呆気に取られていたが、すぐに笑顔になってテーブルの上にあったウイスキーで水割りを作り
『よろしくお願いします。ケンちゃん』
と言ってグラスを持ち上げた。
『こちらこそ宜しくお願いします。本日はおめでとうございます』
『ママ、おめでとうございます。乾杯!』
俺は飲み慣れないウイスキーをゴクリと飲んだ。
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