〇〇と言う店はいわゆるお座敷天ぷらと云った店で、カウンターに直子さんと座ると目の前で板前さんが一品づつ揚げたてを出してくれる高級店でした
僕は店の格式ね高さや、周りの他のお客さんのリッチな雰囲気に緊張していましたが、板前さんが気さくな方で行きつけの店のアルバイト君を卒業祝いで連れて来た旨を直子さんが話すと大学生活や就職のこと話しかけてくれて、楽しく食事が出来ました。
料理屋さんを出ると、まだ早いねもう一軒行こうと直子さん行きつけのバーに連れて行かれました。
僕の学生生活の話を楽しげに聞いてくれる直子さん、良いなぁ私も学生時代に戻りたいなぁとかなり機嫌が良いです。
もっちーは彼女居ないの?一度、女の子を店に連れて来た時あるよね?あの子が彼女?と尋ねて来ます。
違います。あれはサークルの後輩です。それにあの子、僕の友達と付き合ってますと答えると、あれ?その子の事好きなんじゃない?と揶揄ってきます
直子さんの言うとおり、僕は親友の彼女に惚れてました。僕はすっかり慌てて違います。違います。と答えました。直子さんは、笑いながら若いうちは色々あるよねー。なんて言ってバーボンの水割りを煽りました。
もっちー、お代わりは?と自分の空になったグラスをカラカラと音をさせて尋ねて来ます。
じゃあ僕もと、三分の一くらいグラスに残っていた直子さんと同じバーボンの水割りを一気に飲み干しました。
僕は3年間の店のアルバイトで、初めは生ビールすらコップで一杯飲むのも苦労していたのがすっかり強くなってました。直子さんは良いねー!と喜んでます。何にする?同じの?と尋ねてきます。
僕は同じものを頼み直子さんに尋ねました。僕は彼女居ないですけど直子さんも旦那さんとお店来ないですよね。直子さんの旦那さんってどんな人なんですか?と尋ねました。
直子さんは、笑いながらうーん。なんだろなぁ。
おじいちゃん。と答えました。おじいちゃん?と僕が聞き返すと、そう。もうおじいちゃんなの。と直子さんは答えました。
なんとなく、それ以上聞いてはいけない気がして、僕は慌てて話題を変えました。
直子さんの仕事ってフラワーアレジメントなんですよね。時々一緒にみえる方々ってお仕事の関係の人達なんですか?と尋ねてると、直子さんは届いた新しい水割りに口をつけて、そうだよと答えてから少し黙った後、実はね本当に私の旦那さんってお爺さんなの。私の会社の元々のオーナー。会社に勤めて色々勉強させてくれて、良くしてくれて、30歳近く年上だったけど熱心に口説かれて。この人で良いかなって30代の時結婚したの。今は80超えたおじいちゃん。と言って少し顔を曇らせました。
いつも明るい直子さんのこんな表情は初めてでした。僕は、でもお幸せなんでしょ?いつも直子さん楽しそうだもんと僕が言うとはっとした様な顔になって、まーねー。幸せにやらせて貰ってますと笑顔で答えた。
僕達はそれから、面白い常連客の話や店で起きたハプニング、近所の店の変な噂話で盛り上がって、気づくと夜中の12時を回っていた。
店を出ると直子さんは少し歩かない?と言ってきた。僕が勿論と答えると直子さんは再び僕に腕を絡めて来た。
だいぶ呑んだから夜風が気持ちいい。直子さんはなんか楽しいな今日。久しぶりにデートって感じ。こんな若い子と。と言って笑っている。
そうだ!知ってる?グランドホテルの中庭ってこの時間入れるんだよ。と言ってくる。グランドホテルというのはこの近くにある大きな老舗ホテル。
業者さん入れる為に通用門が開いてるの。そこから噴水がある中庭にこっそり入れるんだよ。といたずらな笑顔を見せた。
僕はそうなんですか、こっち来た時は憧れのホテルでいつか絶対泊まってみたいと思ってたけど、常連の高木さんの結婚式で一度行っただけです。凄い綺麗ですよね中庭。と答えると直子さんはニッコリと微笑んで、ね、行こう!と言って僕の手を引いた。
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