茅野はベッドでも可愛らしい娘だった。茅野の身体は若さに溢れみずみずしく胸元は眩しいほどに白く、小ぶりな乳房の先には薄紅の蕾のような愛らしい乳首があった。若い身体はまだ果実に例えると熟していない固さがあったが、俺の愛撫に見せる反応は初々しく俺は茅野の紅潮し息を荒げて喘ぐ姿に激しく欲情を覚えた。
俺たちは今まで抑えていた感情が湧き上がり、何度も熱い口づけをかわし、求め合い激しく愛し合った。俺は茅野の一点の曇りもない滑らかな肌の上に精を放って果て、茅野も同時に短い声をあげ大きく仰け反り絶頂に達した。
茅野は俺の腕の中に潜り込み、嬉しいと呟いた。俺は茅野の身体を抱きしめて有難うと言った。茅野が指を絡めて、こうなったら良いなってずっと思ってたと俺にキスしながら応えた。
それからひと時、茅野は俺に甘え俺はその甘えてくる茅野を愛しく抱きしめていた。俺は腕時計で時間を確かめる。3時を回っていた。
俺は茅野にそろそろ帰らなければと告げた。
茅野は帰るの?と尋ねてきた。俺は茅野を抱き寄せ、すまないと答えると茅野は俺にしがみついた。しかしやがて身体を離し、そうですよね。帰らなきゃ駄目ですよねと呟いた。
俺は茅野の助けを借りて帰り支度を整えた。階下まで送ると言う茅野を、もう遅いからと制して俺は茅野の寂しそうな表情に後ろ髪を引かれた。明日も頑張ろうと言うと、茅野はキスしてと言う。茅野の唇は熱いキスを求める様に動いたが俺は断ち切るように短いキスをして、また明日と告げて茅野の部屋を出た。
俺は車に乗り込み帰宅の道中、ひたすら罪悪感と戦っていた。確かに俺は茅野に魅力を感じ、恋愛感情を抱いている。現に今も茅野のところへ今すぐにでも戻りたい。しかしあんなに素直で明るい良い娘に既婚のこんなくたびれた中年男が手を出して良かったのか。
勿論、茅野の魅力には抗えない。しかし、俺には家庭がある。昨日の異常な出来事、ここ何日かの仕事で芽生えた仲間意識や達成感。そんなものが入り混じって恋愛いや恋愛に似た感情を若い茅野が抱いてくれた。
それで充分じゃないか。俺は家庭を壊すことは出来ない。つまりどこまでいっても茅野は不倫相手。あの魅力的な若い娘に不倫なんて薄汚れた体験をさせて良いのか。
俺は家に戻り子供部屋のドアを開ける。子供達が可愛い寝相で安らかな寝息を立てている。俺がこの家庭を壊す事は有り得ない。
茅野は愛おしい。だがしかし、愛おしいからこそ、これきりにしなければ。俺はそう考えながら家内を起こさないよう静かに寝間着に着替え床についた。
翌日は前日のプレオープンに引き続き本オープン。前日にも増しての忙しさだった。茅野には朝、挨拶をしたきりでお互いにそれぞれの持ち場でスケジュールをこなすのに精一杯であった。俺たちは仕事を精一杯こなし、前日に続き今日も大したトラブルも無く無事終了した。
全ての業務を終わらせて最後まで残っていた業者に礼を言って帰すとやはりそれでも9時を回っていた。俺はいつもの客用ベンチに腰掛けて、やがて来るはずの茅野が来るのを待った。やはり茅野は缶コーヒーを二つ持って可愛い満面の笑みを浮かべてショールームに入ってきた。
お疲れ様です。やっと会えた。今日忙し過ぎて全然高橋さんの顔も見られなかった。茅野は俺にすっと近づいて遠慮がちに抱きついて来た。職場と言う遠慮もあるのか茅野は直ぐに身体を離し、缶コーヒーを渡して来た。茅野はニコっと笑い、それでは恒例のとおどけながらベンチから立ち上がりご指名なので僭越ながら若輩のわたくし茅野が乾杯の音頭を取らせていただきます。と言って腰に手を当てがい缶コーヒーを持った手を掲げて、ご唱和願います!乾杯!と言った。
俺も思わず笑いながら乾杯と声を合わせたとき、後ろから乾杯の声が響いた。私も乾杯させてと佐伯がミネラルウォーターのペットボトルを手にショールームに入って来た。驚く俺たちを尻目に佐伯は俺たちの前に進み出て、私も乾杯に混ぜて。今回のショールームは今までに無いほどスムーズに事が進んだわ。これは本当に貴方達のおかげ。有難う、良くやってくれた。乾杯。とペットボトルを俺たちに差し出す。俺たちはそれぞれの缶コーヒーを佐伯のボトルに合わせた。
俺は佐伯の笑顔に笑顔で返しながらも、内心ではいつから佐伯は居たのだろうか、さっきの短いとはいえ茅野と俺の抱擁や、やり取りを見られていたのだろうかと気が気で無かった。佐伯は今日の来場者から頂いた上々の評価や変わった服装の来場者の話を楽しげに話している。
佐伯は俺の顔を見て、だいぶ腫れがひいたわねと言い、明日から予定通り場内を任せて良いかしら?と聞いて来た。俺は勿論ですと答え、今日まで場内の仕事が出来なかった事を詫びた。俺の顔の腫れに責任を感じている茅野もご迷惑をお掛けしましたと頭を下げた。
佐伯は良いのよ。これだけ上手く立ち上げたんだからと言って茅野に振り返り、茅野さんは明日から高橋さんの後方支援に回って頂戴。今何時?まだ茅野さん電車あるかしら?と聞いた。
茅野は携帯で時間を確認すると、大丈夫です。電車はまだ有りますと答える。佐伯はじゃあ茅野さん、今日は電車で帰って貰える?高橋さんには少し残って貰って場内オペレーションの修正箇所を今日中に相談しておきたいのと言った。
茅野は少し名残り惜しげな視線を佐伯に悟られない様に瞬時俺に送り、はい。分かりました。お先に失礼しますと帰り支度を始めた。
佐伯は遅いから気をつけて。お疲れ様でした。明日もよろしくねと頭を下げてショールームから出て行く茅野に声を掛けた。ショールームの玄関扉から茅野が外に出て、扉が閉まる音を待って佐伯が俺に向き直った。
佐伯はいたずらな目をして俺を見る。さっき見てたの、貴方達を。佐伯のセリフに俺は激しく動揺する。
高橋さん貴方、さすがね。あの茅野をこの短期間でと言ってベンチに座った俺の横に腰掛けた。
ここは女だらけの職場。先ずは茅野を味方につけたのは感心よ。
貴方ならバランス良く恋愛のエッセンスをまぶして茅野を上手く使える。
あの子はまだまだ子供。恋愛の占める割合が大きいのよ。でもそこを上手に使えば茅野は仕事で大きな力を発揮するわ。
こないだまで、大学時代の仕事にまで口を出してくる馬鹿な甘ちゃん男と結婚まで考えてたのあの子。あの子は家庭に入っても良い主婦にはなる。だけど茅野はまだ自分でも気がついていないけど才能に溢れていて、まだまだ野心を持って色々な事が出来る可能性を秘めてる。
高橋さん。貴方優しいから彼女と不倫関係になって良いのかとか悩んでるんじゃない?だけど、自分の倫理観を捨てたいくらいに彼女の若さにも惹かれてるはず。良いのよ。男はそれで。彼女の幸せなんて考えるんじゃなくて彼女を一回り、二回り大きな人間に成長させて貴方を肥やしにもっと上のステージに巣立たせると考えれば。いずれ彼女は貴方をも超えていく女になるわ。
佐伯はそれだけ言い切るとペットボトルを掲げて乾杯と言ってきた。俺は反射的に缶コーヒーをペットボトルに合わせていた。
それは承知しましたの意味を持ってしまっていた。
茅野は満足した表情を浮かべてペットボトルの水を煽り、上手くやってねと言い残すと呆然と立ち尽くす俺を振り返りもせずにショールームを出て行った。
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