俺が近づくと、人の気配を感じた家内が顔を上げた。泣き腫らした目を見開いて驚いている。
貴方…
家内は驚いた様子でうわずった声を出した。
俺は娘から夕方、心配なLINEを受け取り矢も盾もたまらず来た事、家から飛び出した家内を見て心配になり思わずついて来てしまった事を告げた。
家内は黙っていた。
俺は家内から間を空けてベンチの端に腰掛けた。
10分以上、そのまま2人とも黙っていたと思う。
家内から口を開いた。
久しぶりね。元気にしてるの?
ああ。まぁぼちぼちやってるよ。俺は答えた。
大丈夫か?何があったんだ?聞きたい事は山ほどあるが家内の顔は憔悴し切っていて、問い詰める事は躊躇われた。
家内は娘の名前を口にして、まさかあの子が貴方に連絡するなんてと小さな声を絞り出す。
ああ。時々、報告程度の近況はLINEくれてるんだ。
そんな俺に連絡寄越すくらいだから、よっぽどの事があったのかと心配になってさ。
俺は俯いている家内に話しかけた。
家内は少しの間をおいて、大きく息を吸うと小さな溜息をついて、私ってなんだろ?なんだか色々と上手くいかないな。私が悪いのかなと呟いた。
少なくとも俺との離婚に関しては君は全く悪く無い。完全に俺のせいだ。完全に俺が悪い。
俺は誰に答えるとも無しに言う。
そうなのかな。最近思うけど、貴方はずっと仕事して忙しくしてて、でも生活は支えてくれてた。
私が世間に踊らされて、優しい旦那だの、家事、子育てに協力的なパパだの絵空事を思い描いただけなんじゃないかしら。
そんな事ない。理想じゃなくても最低限の事すら何も出来てなくて、お前ばかりに負担がいってたから。俺は家内が出て行く前の晩に言わなければならなかった事を言った。
家内はそうかな…と言って押し黙った。
暫くすると顔をすっと上げて、私、戻らなきゃ。
と正面を見据えて自分に言い聞かせる様に呟いてベンチから立ち上がった。
そして、俺に向き直るとごめんなさいね。
何か心配させて、良くある家庭内のゴタゴタだったの。わざわざ来てくれて有難う。
大丈夫だから。わたし、家に戻るわ。
大丈夫だから貴方も帰ってね。
足早に立ち去る。
少し行ったところで振り返ると、久しぶり顔見れて良かったわ。元気そうね。仕事、頑張ってね。
と告げると公園から出て行ってしまった。
俺は家内を見送った後、暫くベンチに座って放心していたが、ここに居ても何も起きない事を悟ると立ち上がり車に戻って帰宅の途についた。
その次の朝だった。
そんな事が有りなかなか寝つけず、いつもより少し起床が遅くなり慌ただしく出勤の支度をし、なんとかいつもの電車に滑りこみ、スマホを確認すると5分前に家内からLINEが入っていた。
養育費の払い込み、入金確認に使っていた家内とのLINEだったので養育費が無くなってから1年以上放置されていたLINEだ。俺は混雑する通勤電車の中で慌てて、内容を確認した。
昨夜はお騒がせしてごめんなさい。
心配して来てくれたのに、あんな態度でごめんなさい。来週、時間作れないですか。
貴方とは話さなきゃいけない事が有る様に思えます。検討してみてください。
俺は駅に降り立つと直ぐに返信を送った。
僕も同じ事を思っていました。
君と話さなければならない事が沢山ある。
来週いつでも良いです。
そちらの都合の良い日時を指定してください。
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