長女から聞いていた住所に着いた。
閑静な住宅街の立派な一軒家。勿論、俺はこの時初めて家内の住む家を訪ねた。何度もどんな暮らしをしているのか気になり、俺の住むアパートから車で小一時間のこの場所には何度か行こうと思った事はあったが、その行為は虚しく、その度に思い直し止まっていた。
俺は、一軒家の前で暫く様子を伺った。勢いで来たもののどうすれば良いのか分からない。
俺は今一度、既読になっていない娘とのLINEにメッセージを打ち込む。
大丈夫か?何かあったのか?
心配です。返信ください。
一軒家の様子は外から見る限り、一階の電気がつき人が居る気配は感じるものの、静まりかえっている。娘にLINEをしてから20分が過ぎてもいっこうに俺のメッセージは既読になる気配が無い。
俺は何度も車から降りて、一軒家の方に歩き出しては、その度に思い直し車に戻る。
娘から心配なLINEが来たからといって夜8時近くに別れた女房宅に突然行けるものでは無い。
俺は結局、車に留まりジリジリとした気持ちで他人の家を眺めるしか出来なかった。
娘のLINEは最初のメッセージから1時間過ぎても既読にはならなかった。
いくら閑静な住宅街とはいえ、帰宅する人が俺の車の横を通り過ぎる。逆に閑静な住宅街だからこそ路上駐車で中にはくたびれた中年男が乗った車は通行人の目を引いた。
一度車の横を通り過ぎた中年女性が、不審そうな視線を俺に投げかけながら戻って来て、ナンバーを見るような仕草と車の中を伺う様にゆっくりと歩き去って行った。
どうやらここにはこれ以上居られないようだ。俺は今一度、既読にならないLINEを確認して仕方なく立ち去る為に車のエンジンを掛けた。
その時だった一軒家の門扉がガチャンと音を立てて、家内が出てきた。直ぐに旦那と思しき男が出てきて、この時間に何処へ行こうって言うんだ。と少し興奮した声を発する。
家内は男に向き直るとひとりにして!と俺の車の進行方向にむけて早足で歩き去っていく。
男は話が終わっていないぞ!と家内の後ろ姿に言葉を投げかけたが、暫くするとかぶりを振って家の中に戻っていった。
俺は早足で歩く家内の後を車で追った。
家内は暫く歩くと小さな公園に入って行った。俺は車から降りて家内の後を追う。
家内は公園の中ほどのベンチに腰掛けた。
俯いてじっと動かない家内。
俺は暫く家内の様子を見ていたが、家内の肩が小刻みに震えて泣いていることを見てとった時にしぜんと身体が家内の方に動いていた。
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