(旦那さんと娘さんがいない、それってつまり......、ってことだよな?)
(いや、もし辻本さんにそんなつもりがなくて、俺だけ暴走していたら、めっちゃ恥ずかしくないか?)
(ここでおかしなことして万が一引かれでもしたら、もうコンビニで顔合わせできないよね。)
俺の脳内にいろんな葛藤が飛び交う中、辻本さんは笑顔でお茶を出してくれた。
そして、彼女はなんだかくつろいでいる。
まあ、自宅なんだからくつろぐのは当然かもしれないが、それ以上に大人としての余裕が感じられた。
俺は、この状況で余裕など出せないお子ちゃまなのだ。
(うーん、どうしよ....)
(辻本さんにキスしたい。)
(服脱がして抱きしめたい。)
(エッチしたい。)
(でも、そんなことできない。嫌われるの怖い。)
俺がウジウジと考え事をしていると、辻本さんが口を開いた。
「ねえ、○くんは彼女いないの?」
「そんなのいるわけないじゃないですかーー!」
「え、どうして?○くん、モテると思うけどな。」
「何でそう思うんすか?俺、こう見えてモテないっすよ?」
「んー、かわいいよ。顔もかわいいし、無邪気なところとか、一生懸命なところとか。母性本能くすぐるのが上手いと思うよ^^」
「そんなこと言われたことないですよ」
ああ、なんという包容力なのだろう。
俺が何を言っても、温かく受け止めてくれる。
これが年上の魅力か....、いいや、年上の魅力というよりも辻本さん特有の魅力かもしれない。
俺はさらに調子に乗ってしまった。
「じゃあ、Aさん。俺のことかわいいと思うなら、キスしてくださいよ。」
「え?」
やっちまいました。
退かれちまいました。
最も恐れていたことが現実になってしまいました。
ああ、俺の馬鹿。
せっかくいい雰囲気だったのに、ぶち壊しだ!
俺が下を向き、絶望に打ちひしがれていたとき、辻本さんの声が部屋の中の沈黙を破った。
「いいよ。」
「え?」
「うん、いいよ。」
顔を上げると、とても魅力的な笑顔でこちらを見ている辻本さんが、俺の目に映った。
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