土曜日。『今週は帰らない。』と、僕は母へLINEを送りました。最初とは違い、この町に馴れた僕は週末に帰ることも少なくなって来たのです。
そして、明日は僕の誕生日。『週末いる~?』と事前に聞いてくれてた彼女。何かをくれるであろう由希子さんのためにも、帰省は出来ません。
そして、日曜日。お昼前にLINEが入りました。『お誕生日おめでとう。プレゼントあるから取りに来る?』と由希子さんからでした。
『ありがとうございます!今から行きます!』と送り返し、浜野クリーニングへと向かうのです。
定休日のお店の前に着いた頃、ちょうど中からカーテンが開きます。LINEを受け取った彼女が、慌ててカギを開きに来たのです。
『どうぞぉ~。』と言われ、誰もいない薄暗いお店の中へと招かれました。彼女の手には、紙袋が握られています。
『これ、プレゼント。よかったら使って。』と渡されたのは、男性用の黒いバッグ。彼女曰く、『安物よ~?』だそうです。
ありがたく頂戴し、バッグを開けて中を覗いたりもします。
しかし、その場が盛り上がりません。彼女にとって見れば『今日はプレゼントを渡すだけ。』、定休日のお店で僕が長居をする理由がないのです。
それでも、いつもの楽しい二人になろうと考える僕がいて、どこか微妙な重い雰囲気に包まれてしまうのでした。
『浜野さん?デートとか誘ったら、怒る?』、依然断られていたはずなのに諦めきれてはいないのか、僕はこの状況で彼女に言ってしまいます。
彼女の返事は、『どうしようかぁ~?せっかく誘ってくれたしねぇ~?』と、脈がありそうな返事を始めたのです。
そして、『一時間くらいで帰れるか?』と独り言のように呟いた由希子さんは、『1時半くらいだったら行けると思う。』と返事をくれたのです。
時刻は12時前。少し出掛けるのに、『1時間半の時間が欲しい。』ということでした。
僕は一旦家に戻り、数少ない普段着の中から着ていく服を選びます。そしてお風呂も済ませ、待つ時間がとても長く感じます。
旦那さんもいる58歳のおばさんとのデートなのに、本気になってしまっているのです。
そして、約束の1時半。僕の会社の名前の入った乗用車が浜野クリーニングの前に横付けをされました。お店からは、ワンピース姿の由希子さんが現れます。
『待たせてごめんなさいねぇ?』と言いながら、助手席へと乗り込んで来ました。彼女を乗せ、車は走り始めます。
そしてすぐに、『私、旦那の世話もあるから…。』と言って来たのです。やはり、僕の予想は当たっていたようです。
由希子さんはお店だけではなく、奥にいる介護が必要な旦那さんの世話もされているみたいです。
僕は、『そう…。』とだけ返事をし、それ以上のことは聞きませんでした。語りたくもないでしょうから。
『どこ行こうか?』と明るく聞いてくれた由希子さん。いつもの仲の良い二人に、ここでようやく戻れます。
『時間あまりないんでしょ?お茶でも飲みにいきますか?』と聞くと、『なら、あのお店にでも行く~?』と彼女から紹介をされるのです。
お店に着くまでの10分間、話しやすい、いつもの由希子さんでした。それもそのはずです。
短時間でしたが、彼女の顔にはいつもの厚化粧が施されていたのですから。
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