由希子さんのお店でいつものようにイスに座って、カウンター越しの彼女と話し込む自分。
その奥には開いた扉があり、照明がついています。その照明を見ながら、『奥に旦那さんがいるのかなぁ?』と考えてしまうのです。
もし家の奥にいるなら、一度も姿を見せないのですから、旦那さんはおそらく普通ではないと想像が出来ます。
いないのなら、これだけ仲良くなったのですから、『誘えばご飯くらいは行けるかも。』と由希子さんとの接し方も変わりそうなもの。
結局、なにもかもが不明な旦那さんの存在が、由希子さんとの食事程度のこともさせてはくれないのです。
そして出張を始めて半年、僕は1つ年を重ねることになります。
1ヶ月ほど前から、由希子さんに自分の誕生日を匂わせていた僕。『彼女なら何かくれるかも。』と、気持ちが押えられてはいません。
それほど、二人の友情みたいなものは強くなっていたのです。
そして、『お誕生日、何かいる?』と聞いてくれたのは、誕生日の一週間ほど前のこと。彼女からの言葉のように嬉しかったのを覚えています。
今年の誕生日は、ちょうど日曜日。由希子さんのお店も定休日と、うまく重なっていたのです。
子供の僕の頭に真っ先に浮かんだのは、バースデーケーキ。そして、ゲームやDVDともらうものだらけでした。
そんな僕が時間を掛けて口にしたのは、『浜野さん?ご飯とか一緒に行く~?』でした。
『私とぉ~??』、まさかの要求に彼女は驚いたのか喜んだのか、そんな表情を見せたのです。その顔を見て、確信します。『これはいける。』と。
彼女の顔がほころんでいるのです。それに築いていた友情みたいなものもお互いに感じているので、『仕方ない。行こうか。』となるのが普通です。
しかし、『ちょっと無理~。旦那がいるから…。何か買うものでもいい?』と言われてしまうのです。
これでハッキリとしました。この家の奥には、由希子さんの旦那さんがいるのです。自分が始めたお店に出て来ないのは、やはり寝たきりなのでしょうか。
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