『浜野さん、胸、大きいねぇ?』、僕はいつもの僕で聞いてみました。彼女は、『誰が触れって言ったの?』と呆れたように返して来ます。
『ビックリするわ、もお~。』と言って、ようやく座り込んでいた床から立ち上がるのです。
『もう、おしまい?』と追い討ちを掛けると、『おしまい!なにされるかわからんわぁ~、もお~。』と言って、奥へと姿を消してしまったのでした。
僕は『帰る。』とも告げず、ようやくこの店を出ます。とても長い時間でした。
自宅に戻ると、30分くらいしてLINEが入ります。由希子さんからでした。
『怒ってないよ。』とだけ書かれていて、黙って帰った僕を逆に心配してくれたようです。
そこで、『じゃあ、またチュウしに行ってもいい?』と送ると、『もう浮田さんは入れないように、カギを締めました。』と返されるのでした。
そして、午後9時。『なにしてるの?』と再びLINEが入ります。返信をしようとすると、立て続けに入ってくるのです。
『よかったら、遊びに来る~?』と書かれています。更に、『チュウだけだったらいいよ~。』とまで書いてあるのです。
逆に不審でした。こんな時間です。それにこんなに速くにLINEが来ることもなく、内容が内容だけに怪しいものです。
午後9時半。開けられるはずもないこの時間に、浜野クリーニングのカギは開けられました。照明の消された中、由希子さんにお店に招き入れられます。
お店を抜け、居間に通されると、テーブルには開けられたビールが置いてあって、アルコールの匂いが立ち込めていました。
由希子さんはラフな格好をしていて、露出した肌が僅かに赤くなっているのが見えて、彼女が飲んでいたのが後ろ姿からも分かります。
『浮田さんも飲む?』と言われ、あまりアルコールが強くないことを告げます。それでも、キッチンからグラスを持った彼女が現れるのです。
その顔は、まだ化粧を落としてはいませんでした。ラフな格好をして、もう寝る前の時間なのにまだ残したままなのです。
『ちょっとだけ。』とビールがそそがれます。慣れないビールよりも、慣れない由希子さんに戸惑いました。
普段の友達のように話をしている彼女とは、少し雰囲気が違うのです。僕と話をしていても、ちゃんとお店の顔は残してあるのが彼女だからです。
たった一杯だけ、グラスにつがれたビール。それだけで、彼女との45分程度の話を続けていました。それが楽しいのかは分かりません。
それでも、口数の少ない由希子さんの口にはビールが運ばれました。
『ちょっと、トイレ。』と言って立ち上がった由希子さん。廊下を抜け、トイレへと向かいました。
水洗が流され、出て来た彼女はある部屋の扉を開いています。お昼にウロウロした僕には分かります。旦那さんのいる部屋です。
そして、戻って来た彼女は、『浮田さん?暇でしょ?お二階でチュウしようか?』と言って来たのです。
由希子さんは知らないのかもしれません。僕が彼女のいない間に、この家を探索したことを。
2階にあるのは、物置のような部屋と、由希子さんの寝室だけです。招かれるのはきっと寝室の方。
彼女なりに遠回しに言っているつもりでも、僕には分かります。誘ってくれているのです。
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