私は現在42歳。
30歳の時に現在の主人と結婚し、今では8歳になる一人娘
を授かりながら、自宅の一階でピアノ教室を営む主婦です。
教員だった両親に厳しく躾けられ、
幼少期からクラシックバレエとピアノを習わせられながら、
最終的に私立の某音大に進学を叶えると、教職課程を経て、
母校での教員として教鞭を執っていました。
実際教職に就いていたのは27歳迄の5年間で、その当時の
教育現場は虐めの問題が目立ち始めていた頃で、私が教員
として勤務する女子高も例外では無かったんです。
虐めの内容も陰湿なものが多く、私より可愛い顔立ちが
恨めしかったとか、双方のご両親の間に立ちながら、担任
として頭を抱える毎日が続く中、或る日を境に虐めの対象
が私自身にも向けられると、クラスで授業ボイコットとか、
凄惨を期していました。
そんな毎日の中で精神を病んでしまい、散々悩んだ挙句
教育現場を去る決意に至ったのです。
同じ教員だった両親はそんな私の立場や環境を理解し、
その後一年間は自宅での静養をする事になるんですけど、
好きなピアノを弾いたり、リサイタルに出向いたりしながら
徐々に精神も健常さを取り戻し、笑顔も浮かぶようになった
のです。
そんな私の姿を眼にし、一人娘の未来を危惧したのか、
或る日突然、父からのお見合い話が舞い込み、母の勧め
も有って、お見合いをした相手が現在の夫。
当時の私は29歳で、庁舎勤務の夫は32歳。
実際にお会いした時の夫は合成写真のようなお見合い写真
とは異なり、前小泉首相の御次男に似た、とても爽やかな
印象でした。
お見合いの数日後には結婚を前提とした交際を申し込まれ、
一年間に及ぶ交際を経たのちに晴れて結婚。
男三人兄弟の三男だった夫が快く婿養子として我が家で
暮らし始めると、父は私達夫婦の為に離れに在った自分の
書斎を15畳敷きへと増床させ、私達夫婦の環境に気遣うよ
うに、快く譲ってくれたんです。
そんな夫婦環境も手伝い、翌年には待望の一人娘を出産。
順風な家族での生活を育みながら、3年前には父の定年を迎
え、娘が5歳になったタイミングで夫婦の部屋でピアノ教室
を始めた訳なんですけど、教員当時の仲間や生徒の父兄から
の紹介も頂きながら、タウン誌に掲載した生徒募集の求人前
に既に5名の生徒が集い、その生徒の一人が雅也君でした。
お母さまとご一緒に我が家に来られたんですけど、音大に
進みたい旨のお話も伺いながら、育ちの良さが滲む顔立ち
に、とても高校一年生には思えない落ち着きもあり、私も
音大出である事を告げると、私に手向けた笑顔が堪らなく
可愛い男の子でした。
そうこうして3年間のピアノのレッスンを通じ、無事に私の
出身大学である私立の音大への合格を果たした雅也君。
大学への合格と共に生徒と先生としての関係は消滅したん
ですけど、それから2年後の暮れに偶然街で声を掛けられ、
振り向き様に見た雅也君は精悍な表情を携えながら、20歳
の好青年へと成長していました。
丁度10歳になった娘も一緒だったんですけど、懐かしさの
余り私の方からお茶に誘い、昔話に花を咲かせたんです。
別れ際には、たまには遊びにいらっしゃいよ!なんて社交
辞令のような挨拶も交わし、ラインを交換したいと言う彼
に応じ、その場を後にしていました。
それから数日経って雅也君からのラインの通知があり、
私はレッスンの無い平日に彼を招いていたんです。
私のピアノを弾いてみせる精悍な横顔に見入りながら、
用意しておいたシフォンケーキと紅茶の準備をしようと
一旦部屋を後にし、キッチンから私が部屋に戻ると雅也君
の姿が見えず、私はお手洗いだろうと、疑いもせずに部屋
の中で待ちながら、ふとフォークを用意していないことに
気付き、再びキッチンに向かったのです。
キッチンから廊下を挟んだ前がお手洗いで、キッチンと浴室
に繋がる脱衣室が隣接する間取りだったんですけど、当日は
小雨模様で、私は下着類を脱衣場に部屋干しにしておいたん
ですけど、その脱衣場から人影が動く気配を感じ、思わず
雅也君?と声を掛けたんです。
すると少し赤面した面持ちで、トイレこっちじゃなかった
でしたっけ?と姿を見せた雅也君。
私も私で、もう忘れたの?と返しながら、その時は全く
気付いていませんでした。
雅也君はその後2時間程で帰ることとなるんですけど、異変
に気付いたのはその後でした。
あの日、父は朝から府中競馬場に向かい、母は中学で教鞭
を執っている時間で、娘も小学校に登校しており、我が家
には私と雅也君の二人だけでした。
もうそろそろと言う雅也君に、台風が近づく外の雨も大降り
に変わり、私が隣町に暮らす雅也君を車で送ろうとする最中
でした。
とりとめのない会話を車中でも交わしながら、シートベルト
をしていなかった雅也君に促すように視線を送ると、その
スラックスの右ポケットから覗く黒い布地が眼に留まり、
どこか見覚えがあるレース使いのその布地が、私の下着だと
理解するのに、そう時間は要しませんでした。
一気に興覚め、言葉も無く彼の自宅へと送り届けたんですが、
私は車の窓越しに作り笑顔を滲ませながら、真っ直ぐに自宅
へと向かい、自宅に帰るそうそう直ぐに脱衣場に向かうと、
私の予想は的中し、洗濯ピッチに吊り下げ、部屋干しにした
筈の黒いレース使いのショーツが消えていたんです。