「良かったら、僕とこれからゲームしませんか?」
ケイコに声をかけたのは、妻に頼まれて行ったスーパーだった。
開店と同時に入った店内で見かけ、一目で何となく気になった。
メモを片手に慣れない売り場をいったりきたりしてるうちに、何度か目が合った。
ナンパなんて、いつぶりだろう。
胸の高鳴りと、緊張がバレないように、精一杯の笑顔を作って声をかけた。
「え?」
驚いたケイコの顔が怪しげな表情になる前に続けた。
「いや、もしこのあとお時間があるなら、恋愛ゲームしませんか?
夕方までの恋人ごっこ。まあ、簡単に言えばナンパなんだけど」
僕が満面の笑顔を見せると、ケイコは吹き出した。
「変なナンパですね。でも、私、結婚してるんで」
相手が笑った時点で押せるー昔とった杵柄だ。
「俺もしてます。だから、ゲームなの。余計なことはしないし、聞かない。一瞬の非日常を楽しむ感じ」
押しまくる僕に負けたケイコは、「誰かに見られたら困るから」と、ドライブに乗ってくれた。
見た目より意外に上で、38歳だったこと、ナンパされたのは3年ぶりくらいってこと、お互いの自己紹介も含めて、車を走らせながらたくさん話した。
「恋愛ゲーム楽しいね。新鮮だし、ちょっとドキドキする」
無邪気に笑うケイコに、こっちがドキっとする。
「ちょっとだけ?俺なんか初めからドキドキしっぱなしだよ」
「ほら」と言って、ケイコの手を僕の胸に寄せる。
「車の音でわかんない」
すっと手を引くケイコが、少し照れたように見えた僕は、少し意地悪をした。
「じゃあ、もっとドキドキさせようか」
信号待ちのタイミングでそう言うと、運転席から乗り出して顔を近づける。
目の焦点が一瞬ボヤけるくらいの距離。
少したじろいだケイコは、「バカ」と、さっきより照れて突き放した。
「どう?ドキドキした?」
やった自分の鼓動が響く。
ケイコは「バーカ、バーカ」と言いながら、僕の肩を叩く。
少しの沈黙。
信号が背中を押すように
赤に変わる。
今度はゆっくり顔を近づける。
「ドキドキしてる?」
「すっごく」
二人の唇が重なった。
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続きます。