サブタイトル【突然のメールから・・・】
午後3時半・・・電話対応をしている時、デスクの上の携帯のメール音に反応した。思わず、電話しながら、携帯を手に取った。彼からだった。
電話を終え、しばらくして、お手洗いに立った。携帯には、「急だけど今日帰り出張中。夕方5時頃には、街に行けるよ。会えるかな?」ええーっ、そうなんだ。
定時は、5時15分。「少し遅れるけど、会いたいな・・・」
胸の鼓動が高まり、夕方までの仕事は、手につかなかった。もう、私に仕事を頼まないでね・・そう願った。
定時に、「お疲れ様~」と席を立つ。会社を出て、無意識で歩く速度が早くなっている。スーパーのお手洗いの鏡で顔を確認。ルージュを引き直す。腕の時計を見る。5時20分。待ち合わせの駅北口のパチンコ店の駐車場まで、そこから5分。息が上がる。必死だった。久しぶりに・・・あの日以来、彼と会える・・・ハアハア息を切らし、歩いた。
奥に彼の車を発見。彼の車の助手席に滑り込む。今日は出張で、自分の車だ。
息の荒い私を、彼は笑った。「まあまあ・・落ち着いて」と、私の髪を撫でてくれる。彼と出会えた・・突然だけど、すごくうれしかった。予期せぬ幸運に感謝。
彼は、近くの公園駐車場まで行った。日暮れの時間、まばらな駐車場。自然と彼と私の指が重なった。強く、指を絡めたのは、私の方。「落ち着いた?」と彼。頷く私の髪を、撫でてくれる。
「会いたかった・・・」と彼。「私も」彼の腕が、私の背中に回った。「ぎゅう~っとして・・・」彼は、強く私を抱きしめてくれた。彼の男の臭いとタバコの臭いを感じながら・・・彼の腕の中で、ふと・・・涙がこぼれた・・・彼に気づかれないように、彼の胸に顔をうずめていた・・・
「美奈子・・・いつものいい香りがするよ・・・」「うん・・・」
しばらく、あえなかった日々の電池切れを充電するかのように、私達は体を寄せ合ってじっとしていた。その間も、彼は私の髪を撫でてくれた。
「あれ?・・泣いてたの?」私は、首を振った。「言わなくていいよ・・・」彼は、そっと私の目尻を指先で拭ってくれた。
そして、見詰め合った。潤んだままの私の瞳を、彼は深く覗き込む。気持ちは一緒・・・答えも一緒・・・でも・・・
彼の唇が近づくと、私は目を閉じた。熱いキス。柔らかな唇。彼の舌が・・・私の唇に割り込んでくる・・・私はそれに応える・・・体が熱くなっている・・・
彼は私の耳元で、「行こうか・・・」私は・・・黙っていた・・・だって・・・帰らないと、息子が帰ってくる・・・夕食も作らなければ・・・
ものすごい葛藤だった・・・こんな葛藤は今までにないくらいに・・・
母親を取るか・・・女を取るか・・・
「分かったわ・・・ちょっと、電話してくるね・・・」外に出ようとするそんな私を、彼が引き止める。どうしたの?・・・そんな目で・・・彼を見た・・・
「ここで電話していいよ・・・」「でも・・・」「そんな美奈子を見てみたいから・・・」
鞄から携帯を出した。彼は、不意に、私の右手を握った。ええ?これで、電話するの????
決心した。短縮で、息子の携帯に発信した。うつむく私。指を絡めた右手は、彼に強く握られたまま・・・
「あ、私・・・うん・・・今日、ちょっと残業で遅くなるんだけど・・・うん・・・大丈夫?・・・うん、それも冷蔵庫に入っているから・・・ご飯も炊いてあるからね・・・うん・・・
ごめんね・・・9時くらいには帰るから・・・うん・・・ごめんね・・・は~い・・・」
電話を切った。携帯を鞄にしまった。彼の顔が見られなかった。でも・・・
私が決めたことだから・・・好きな人と会える短い時間を大切にしたいから・・・自分への援護
彼は、また強く私の手を握ってくれた。自然と、彼に微笑していた。
「行こうか・・・」「はい・・・」
彼は、エンジンをかけた。