ぼくは京都近郊の街に住む45歳の既婚者で、自営業をしています。見た
目なのか、物事の成り行きにあまりこだわらない、さっぱりした性格のせい
なのか、自分ではよく分かりませんが、以前からわりと女性にはもてる方
で、もうおじさんの部類に入ったいまも、妻の他に何人かの愛人もしくは恋
人がいます。自営というより自由業に近い仕事なので、平日の昼間に時間が
取りやすいのです。それも不倫めいた複数の関係を容易に保っていける理由
のひとつであるかもしれません。
そういった中のひとりに、とてもM感覚にとんだ女性がいます。
以前、彼女はベッドでぼくと睦んでいるとき、自分をもうちょっと乱暴に
扱って欲しい、というようなことをよく言いました。仕事をばりばりとこな
す30代の知的な女性で、セックスの時も、自分の気持ちよさを追求すると
いうことに積極的な人です。
でも、女性の敏感な場所を指で撫でたり、舌でついばんだり、それもでき
るだけソフトにくり返して相手の情感が高ぶるのを待つ、というのが、セッ
クスを覚えて以来のぼくの流儀で、そしてそのことを不足に思っているよう
な女性は他にいなかったので、彼女の言葉に当惑することがこれまでしばし
ばありました。
そういうあるとき、二人で入ったラブホには、めずらしく帯つきの浴衣が
置いてありました。これでちょっと縛ってやろうと、そのときのぼくは軽い
気まぐれを起こしたのです。
まだシャワーを浴びる前のからだを無理矢理に裸にして、背中で彼女の両
手をつかみ、浴衣の帯でぐるぐると縛り上げました。本格的なマニアには、
失笑を買いそうな稚拙な遊びですが、後ろ手に縛った彼女の体をベッドに放
り投げ、何気なく秘密の裂け目に触れたとき、彼女の鋭敏な場所にそれまで
何の刺激をしたわけでもないのに、そこはもう洪水といってよいような大量
の愛液が滴っていました。もう何をしなくても、簡単にぼくのものを飲み込
んでしまいそうな濡れ方です。
その感触に、たちまちぼくは欲情してしまい、彼女を裸にしたときから、
血流を集めはじめていたぼくの怒張をズボンの中から解放して、このまま後
ろから突っ込んでやれと思ったのですが、それもあまりに芸がない。もうち
ょっと苛めてやれ、と、つまり興が乗るといいましょうか、これまであると
思わなかったぼくのS感覚に火が点いたのです。
「うわあ、すごい、びしょびしょじゃん。何にも触ってないのに、どうして
こんなに濡れるんだ?」
「いや!」
彼女も、自分がふしだらな液体を滴らせている自覚があるのでしょう、そ
の恥ずかしさに、不自由な体をよじって、自分の醜態を隠そうとします。
ぼくは彼女の横、つまりベッドの縁に腰掛けると、右腕で彼女の下腹を持
ち上げ、それを自分の膝に載せました。目の前に彼女の大きな尻がある状態
です。
ぼくは彼女の尻たぶをふたつの手で割り開き、いまや湯気を上げるほどび
しょびしょに濡れている彼女の中心に顔を近づけ、くんくんと、彼女に聞こ
えるような大きな音で、鼻音を鳴らしました。お前の恥ずかしいところを嗅
いでいるぞ、と彼女に示したのです。
「いやあ!」
とひときわ大きな声で彼女は叫びました。
「うわ、すごい匂いだ。いやらしい匂いがする。こんなことで欲情して恥ず
かしい女だなァ。変態か? おまえ」
「ああ、いやあ」
混乱しているのか、恥じらっているのか、彼女はもう意味のある言葉が発
せません。
ぼくはどんどん図に乗っていきます。
「こっちはどうだ?」
そういうと、今度は彼女のアナル付近に鼻を近づけ、またくんくんと音を
立てて、その匂いを嗅ぎ始めました。
「そこ、だめ、だめえ」
焦って、叫ぶように彼女は言いますが、もちろん、そういう言葉を聞ける
普段のぼくではありません。
「○○子……」
ぼくはあえて冷静な語調を装い、彼女の名を呼び、しばらく時間を置いて
から、
「臭い。お前の尻の穴は、どうしてこんなに臭いんだ?」
冷酷に言い放ちました。
「ああ、もう、いやあ、もう許してえ……」
彼女は顔をシーツにこすりつけて恥じらっています。でも、それが、心の
底からぼくbのしていることを拒絶するポーズでないのは明らかです。
「臭い尻は叩かないと」
そう言って彼女を見ました。彼女はぼくの顔が見られないで、ただいやい
やをするように首を振っています。
彼女の下腹にまた手を回すと、いくぞ、とも言わずに、ぼくは空いた左手
で、彼女の尻っぺたを叩きました。その手のベテランではありません。適当
な加減は分かりませんが、それでも怒りにまかせているわけでなく、彼女へ
のある種の愛撫としていることですから、何となく、彼女がはっきりとした
痛みを感じつつ、けれども堪えきれないほどの痛み(つまり、すべてが醒め
てしまう痛みといえるでしょうか)でもない打擲の加減が、ごく自然にその
ときは感じられました。
「ううっ」と、自由にならない尻を、それでも跳ね上げながら、彼女が呻き
ました。その呻きが終わる前に、ぼくは反対の尻に、二つ目の打擲の赤い手
形を残しました。
それからは、20か30か、ただ、ああ、とか、ううとか、声にならない
声を発しているだけの彼女の尻を、ただ無言で打ち続けました。ひどい興奮
を覚えながら、でも、ぼくは彼女の限界を見極めようと少し冷静な心を持っ
ていました。
たしか20くらいを過ぎた頃、どうだ? 耐えられるか? と聞いてみま
した。
彼女は首を振りながら、ただ「熱い」と答えました。痛みはもう感じず
に、それは尻の熱にとって替われていたのでしょう。
「もっとか?」
そういうと、彼女はまた無言で首を振りました。でもぼくには分かってい
ました。もしもほんとうにこれ以上に叩かれることが彼女にとって無理な
ら、きっと彼女は言葉で、もう無理だからやめて、と答えたはずです。
「まだ。大丈夫だ。いくぞ」
ぼくはそう言いました。そして彼女もそれを望んでいる……。
その証拠に彼女は、こくんと小さくうなずいて見せたのです。
ただし、いったん休憩を挟んだあとの尻打ちは、思いがけない痛みを彼女
に与えたようで、彼女の呻きは、うっ、とか、あっ、とか、ひどく鋭角なも
のに変わっていきました。それでもまだ20ばかり叩き続けて、ぼくは生ま
れてはじめてのスパンキングをようやく切り上げました。
ぼくの手の平にも、かなりの痛みと熱が残っていました。それ以上にペニ
スの、ほとんど痛みさえ覚える怒張と脳内の興奮を、もうこれ以上には耐え
ていくことができないと感じていたのです。
叩いていたこの間、彼女は、「痛い」「熱い」と何度となくくり返しまし
たが、でも一度として、もうやめてくれとは言いませんでした。彼女の雪の
ように白い尻は、周辺が赤く、その中心はすでに赤とも言えない紫色に変色
していました。それはぼくには、ひどく愛おしい色合いと光景でした。
まだ後ろ手を浴衣の紐で縛ったまま、ぼくはベッドの上で彼女に尻を高く
掲げさせ、その中心の裂け目に、ぼくの張り切ったものを、深く突き刺して
いきました。
尻叩きを切り上げたときには、もう脱力していたかに見えた彼女は、その
瞬間、かつて聞いたことのない大きな喜悦の声を上げました。それをそし
て、ぼくが激しい出し入れをくり返している間中、絶え間なく上げ続けたの
です。
目の眩むような、かつて経験したことのない激しい快美感を伴いながら、
下腹からすべての精気を吸い取られていくような射精の瞬間、ぼくのセック
スの歴史は、彼女とともに新しい一ページを刻んだのだ、と感じました。
基本的にはしかし、ぼくは優しい人間の枠を超えることが出来ません。そ
のあと、紐を解いた彼女をベッドで柔らかく包みながら、つらかった? と
聞くと、彼女は、「ちょっとね」といたずらっぽい顔を浮かべました。
そして、こうも言ったのです。
「ほんとは、叩かれたあと、お尻も苛めて欲しかった」
このひどく変態的で、しかし愛さずにはいられない女性と、たぶんこれか
らも、尻を叩きながら、心を重ねていくようなつきあいを続けていくことで
しょう。
でも、その一方で、まだ叩いたことのない真っ白いゆたかな尻を、あの赤
と紫の入り交じった自分だけの美しい抽象画のキャンパスにしたい。そんな
不逞なことも考えているこの頃です。