続きです。ダイニングテーブルには二人分の食器とワイングラスがそのままになっていました。それが益々私を苛立たせました。リビングで男は黙り込んでいました。妻いまだにベソをかいています。ぐずぐずこんな時間を過ごすのはまっぴらごめんだったので、単刀直入に私は切り出しました。「分かる様に説明しろ !」と。最初に 口を開いたのは妻でした。「こんな風になるとは思わなかったの…成り行きで…」当然私の待っているような答えではありません。私は男に素性を明かすように言いました。「運転免許と名刺、携帯も出せ」 男は全て持って無いと言い、「すいません、マジで勘弁して下さい」と繰り返していらした。名刺は持っていないにせよ今時の成人男性が運転免許と携帯電話を持っていない訳がありません。私はバカにされている様な気がして「持ってる物全部出せ!」と怒鳴りつけぶん殴ろうと胸ぐらをつかみました。その時「止めて、全部言うから止めて…」妻が叫びました。この辺りから妻はある程度落ち着きを取り戻しました。もう、逃げたり、言い訳が通る状況では無いと悟ったのかもしれません。妻曰わく男は24歳俊介と言い、娘のスイミングスクールの夏休みの強化合宿でに来ていたコーチとの事でした。合宿最終日の夜に飲み会になりその日男女の関係になったとの事でした。妻、俊介ともにその日限りのつもりの様でしたが、その後なし崩し的に関係が続き現在に至った様でした。妻は「本当に愛しているのはパパだけ。でも成り行きと言いか…本当は寂しかったの…私もまだ女なのよ…」後頭部をバットか何かで殴られたような気がしました。考えてもいなかった妻の言葉。寂しかった?何故?少なくとも私には理想的で平和な家庭でした。確かに夜の営みは月に一度あるか無いか程度でしたが、妻も何も言っていなかったのでそれはそれで満足しているものとばかり思っていました。俊介は洗いざらい妻に喋られ観念したのか持ち物を全て私に差し出しました。