妻が、大根、ホウレン草等の野菜を、頻繁に買ってくるようになった。
それが、玄関口に随分と積まれるようになった。
子供達の方がソレに気づき、妻に言ったらしい。
「どうしたの、こんなに?」
「安かったからね! たくさんあった方がいいでしょ?」
会話は自然だが、野菜、あまりにも多すぎる。
後々、この野菜は浮気の証拠になってしまう。
八百屋のオヤジが、わざわざ家にまで持ってくるようになったのだ。
野菜と一緒に、忘れていったというハンドバッグまでも持ってきた。
「何でこんなモノ?」
「うちのカアちゃんに見つかったら大変だよ。」
「うちのカアちゃん?」
「いやいや、見つかってよかった。」
対応したオレには、わけのわからない会話だった。
しかし、オヤジの態度がヘンな事に気づいた。
胡散臭い。
その時、丁度、妻が不在で、届けられたそのハンドバッグの中を確かめた。
化粧品、財布等が入っていた。
そして、封筒に入った札束(10万円)もあった。
オレは、この封筒を抜いた。
勿論、妻には、何も言わずに。
やがて、妻が戻り、オレは八百屋が来た事を告げた。
「やっぱり! どこに忘れたのかなあって、ずっと探してたのよ!」
妻は、ふうっと息をして、座り込んだ。
「なあ、八百屋に買い物に行ったんだよな?」
「えっ? そ、そうねえ。」
「でも、オマエのその服装って、八百屋へ行く格好じゃないぜ。」
「そ、そんな事、ないけど。」
そして、話しが発展した。
夜中、妻が電話をしていた。声を押し殺すように。
オレは眠ったフリをして、その会話に耳を傾けた。
どうやら、さっきオレが抜いた封筒(金の入った)の事らしい。
「封筒、入ってないわよ!」
「アナタ、私のバッグから抜いたでしょ?」
「卑怯よ! タダでヤリ逃げ?」
「野菜なんかじゃ、安過ぎるわよ!」
妻の発する言葉から、会話の相手の言葉も予想できた。
つまり、浮気というよりは、金で体を売っていたのだろう。売春だ。
あの八百屋のオヤジが相手か。
オレは、何とも言えぬ気持ちになり、明日からの生活を真剣に考えた。
妻の浮気、売春等は、確かに、女性不信になる原因だな。
オレは、まさに他人事だと思っていた事を、経験する事になったのだ。
とりあえず、明日の朝、妻に問い詰めよう。